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信号が赤になったタイミングで私の方をチラッと見た伊織くんは少しだけ残念そうな顔をした。
そんな寂しそうな顔をされるとなんでも言ってしまいそうになる。
「⋯⋯やること全部かっこいいなって思ってる」
「心春にそう思ってもらえるなんて嬉しいな」
「かっこよすぎて、勘違いしちゃう子たくさんいるかもしれないよ?」
「その心配はいらない。心春にしかこんなふうにしないから」
本当かどうかの判断は私にはできないが、伊織くんはよく私にしかしない、と言ってくれる。
優しさも甘い言葉も⋯そして触れるだけのキスも、全部私にしかしていないと思っていいのだろうか。
伊織くんへの気持ちを理解した今、もし本当に私にしかしていないのだとしたら、少しは期待してもいいのかな、なんて考える。
好きでもない人にあんなふうに普通は触れたり口付けたりするもんなのか。
「俺は心春にだけかっこいいと思ってもらえれば、それだけで十分だ」
「⋯⋯ずるいなぁそういう言い方」
言葉でハッキリ気持ちを伝えられたわけではないが、その意味をどうしても私は特別なものに捉えてしまう。
私には他の人とは違う特別な感情を抱いてくれてるのではないか、と。
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