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「奥様、とても嬉しそうですね」
「えっ?」
「ご結婚指輪を見つめながらずっと笑顔でしたよ」
「そ、そうでした?」
まさかそんなに笑顔になっていたとは全然気づかなかった。
無意識のうちに結婚指輪を見て微笑んでいたらしい。
意外と私は喜んでいるのだろうか、この愛のない結婚に。
私はただお金に目がくらんでその提案を飲んだに過ぎない。
(まさか、そんなはずはない。喜んでるなんてそんなわけないでしょ⋯)
販売員さんはサービスで空の箱に綺麗にリボンを結んでくれた。
紙袋に入れられたその中身の入ってない箱を受け取った伊織くんは私の左手に指を絡める。
突然手を握られ動揺するものの、夫婦としては当然の行いのため見送ってくれる販売員さんに小さく笑みを浮かべた。
最後に"末永くお幸せに"という言葉をもらったが、私たちの幸せはどこまで続くのだろうか。
そもそもこれがお互いの幸せなのかは誰も分からない。
きっといずれ時間がどうだったのか証明してくれるだろう。
私たちは再び乗ってきたスポーツカーに乗り込んだ。
ハンドルを握る伊織くんの左手には私の結婚指輪と同じデザインの指輪がキラリと輝く。
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