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おそるおそる機嫌を伺うように伊織くんを見つめる。
コーヒーのカップに口をつけ一口飲み込むと伊織くんは小さく息をついた。
「分かった。なら俺もしばらくは黙ってる」
「ごめんね、ありがとう伊織くん」
私がまだ言いたくないと言った時、少しだけ悲しそうな表情をされたような気がしてならない。
それが彼を酷く傷つけているような気がしてしまいチクッと胸が痛んだ。
伊織くんはその後何事も無かったかのように私が作った朝食を全て食べ終え、空いたお皿をシンクまで運んでくれた。
スウェットからスーツに着替えて髪を整え、身支度を終えた伊織くんは今まで私が見ていた欠点のないイケメンに変身した。
元々寝起きでも十分整った顔立ちをしていたが、やはり髪の毛も整えてスーツを着こなすとまた違って見える。
「なら行ってくる」
「いってらっしゃい」
玄関まで彼を見送るためついていくと、振り返った彼は私のおでこにチュッと口付けを落とす。
(き、キスされた!?)
突然の行動の上、その浮かべた笑顔があまりにもかっこよくて私の顔が一気に茹でダコのように真っ赤に染まる。
その真意を聞けぬまま、彼は会社へと向かうのだった。
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