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第1話 悲痛
「おはよう」
昨日晩、浩二と夏休み終盤の思い出を語り合い、長電話でお母さんに怒られた。
「明日から二学期が始まる」
のんたんと仲直りしたけど、遊園地の時に会って以来、連絡もしていない。えり、ともち、紗季はどうしていたのだろうか?
「明日は色々な話が聞けそうだ。浩二の事は暫く内緒にして置くけどね」
私は胸を膨らませ就寝した。
今朝、ダイニングからリビングに入り、「おはよう」と挨拶したが、お父さんもお母さんもテレビのニュースに気を取られているようで私に気づかない。
いつもの席に着き、私もテレビの画面に映し出されている映像を見て言葉を失った。
「このバス、学校のスクールバス」
母は私に顔を向けニュースの内容を説明してくれた。
「鎌倉女子高、付属中のスクールバスが左折時に信号無視をしたトラックと衝突したそうよ。お友達は大丈夫?」
「連絡してみる」
メッセージアプリを起動した。クラスグループのメッセが流れるように書きこまれている。一時メッセージを止め、最初のメッセージを見てみると
『長谷川さん、いつもより早く来て、ベンチに座っていたらしいよ』
『紗季も一緒だったらしい』
『紗季からスクープメッセが届いていたよ』
『何かあったの?』
『大有りよ。長谷川さん、工藤さんのお兄さんと付き合っているんだって』
『マジー、杏子のお姉ちゃんになるの?』
くだらないメッセが続いる。
一時停止を止めると、メッセが再び流れ始める。
『長谷川さんが乗っていたバスが事故だって』
『根拠は?』
『乗り損ねた子がなっちゃんから聞いたって』
『なっちゃん他の組の子と一緒に通っているからそのバスには乗らず、友達を待っていたらしいよ。2人が乗ったのを見たらしい』
私は血の気が引いた。
テレビ画面を見ると救急車が数台到着したところが映し出されていた。サイレンの音がスピーカーからうるさいほど流れている。
私は5人グループのメッセにみんなの安否を確認した。えりとともちは一緒にいて無事とのことだ。
これから事故現場に行くらしい。
自宅の電話が鳴った。
「のんたん?」
私は立ち上がり、お母さんが取った電話口に立った。
のんたんのお母さんだった。
「いいえ、杏子は今ここにいます」
「はい」
「希ちゃんと連絡取れないんですか?」
「そうですか。何かあったら連絡下さい」
お母さんは電話を切り首を振った。
お兄ちゃんがリビングに入って来たのに気が付かなかった。
「おはよう」と声をかけられて、声のする方に顔を向けると、ダイニングテーブルの前に立っていた。
お兄ちゃんの顔を見て目から涙が溢れて来た。席を立ちお兄ちゃんの前まで行った。
「のんたんと連絡が取れないの」
お兄ちゃんは私の顔を見つめて、それからテレビ画面に向いた。
『お兄ちゃん何しているの』
更に続けた。
「いつものんたんが乗っているバスなの」
私のガクガクしている足も限界だった。すっと落ちるように座り込み
「お兄ちゃんのんたんを助けて上げて」
既に声を上げて泣いた。
私の声はお兄ちゃんに届いただろうか。正確に言えたかどうかもわからない。
お兄ちゃんが血相を変え、家を飛び出して行ってからどれくらい経ったのだろうか。
お姉ちゃんから安否の確認が来たのと、学校から休校にすると連絡があった。
お父さんは既に出かけていて、お母さんは会社を休んでくれた。
暫く沈黙が続いた。
テレビのキャスターの声がうるさくて、私はテレビの電源を切った。
「杏子何か食べる」
壁掛け時計を見るとお昼の時間だった。何も食べたくなかった。私が首を振ると、立ちあがろうとしたお母さんは腰を下ろした。
電話が鳴った。
お母さんも私もビクッとし、なっている電話を見つめた。お母さんは立ち上がり受話器を上げた。
「もしもし、工藤です」
「はい。そうですか」
少し間があった。
「お悔やみ申し上げます」
私は立ち上がり電話口まで行くと怒鳴っていた。
「お悔やみって、誰のこと。誰のこと!」
お母さんは私をきっと睨み
「杏子黙ってなさい」
「はい。○✖️病院」
「誰のこと!!」
「パシッ」と音がして私の顔はダイニングの方を向いている。
『叩かれたんだ』
痛みは感じなかった。
「申し訳けございません。はい。すぐに向かいます」
お母さんは電話を切ると、私に向き合い
「叩いてごめんね。でもね、電話中だったのよ。話があるなら電話を切ってからにしなさい」
「ごめんなさい」
「○✖️病院に急ぎましょう。希ちゃんを病院に搬送するそうよ」
私達はタクシーで、○✖️病院へ急いだ。
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