草木染めのスカーフ

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 私が高校2年生の時の出来事だ。  当時、私は同じ学年の6人の仲間達とイギリスに交換留学をしていた。  その際、阿部というお調子者の男子が、肝試しを思いつく。  イギリスに実際にある「とある凄惨な事件が起きた家」に行き、家にあったものを証拠として持ち帰る、という内容だ。  無論、断る私や仲間達。  けれど、言ったからには引っ込みがつかなくなったのだろう。  阿部は一人で肝試しに行き、庭にあった木から、樹皮を大きく剥いできた様だった。  約1ヶ月後。  帰国した私達は、美術の時間に草木染めの体験をすることになる。  作る物はスカーフだ。  その時、 「これでやってみようぜ!」  といい、例の庭から持って来てしまった樹皮を使い、草木染めをする阿部。  染まり上がった布は、まるで乾いた後の血の様にどす黒く不吉な色をしていた。  美術の授業が終わり、数時間後の昼休み。  気味が悪いからやめろと言う意見も聞かず、どす黒く染まったスカーフをして、阿部は校庭に飛び出していく。  数分後、校庭にいた生徒達がパニックを起こした状態で職員室に飛び込んでくる。 「大変だ!阿部ちゃんが死んじゃう!」  慌てて先生方や私達が見に行ってみると――サッカーのゴールの直ぐ隣で、木にスカーフを取られ、紫色になって痙攣している阿部の姿があった。  見ていた友人達曰く。  阿部はネットの上に乗ってしまったボールを取ろうとした。ゴールポストの上によじ登り、降りようとしたところ――風に舞い上げられたスカーフが木の枝に絡まってしまったらしい。  直ぐに病院に搬送される阿部。 幸い、命は助かり、後遺症もなかったが――彼の首には、今もあの時のスカーフの痕がくっきりと残っている。
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