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 だから私は言ってやったのだ。 「あなたのせいで台無しなの。結婚さえ出来ればいいと思ってた。人生を見返すチャンスだから。私は学歴でも就職でも人並みだった。だけど、この結婚が難しい今の時代に結婚さえ出来れば逆転出来る」  絶対に、大切な人には言わないであろう言葉だ。 「頂点じゃなくても良いから、人並みな女になりたい。出来れば人並みよりも少しだけ上の女に。誰かを見下したい訳じゃないけど、見下されることのない女になりたかったの」 「叶えられなくて、悪い」  勇登は悪いとはちっとも思って居なさそうな顔をする。いつもそうだった。私が何を言っても平然とした顔をする。その顔を変えたくて怒鳴ってみたり、泣いてみたりしたけれど、何一つーー。 「悪者っぽいこと言うけど、悪者にはなれない。面倒くさいけど、面倒見は良い。そういう友梨のこと、嫌いではないんだ」  だから、と言いながら彼は伝票を持って立ち上がった。 「違う道で幸せになろうな。お互い」 (嫌な男)  私はメモ帳に乱雑に電話番号を書いて押し付けた。ひょっとしたら、もう消してしまっているかもしれないから。 「友達ぐらいになら、なっても良い。連絡、するから」
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