山小屋

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 以前おばあちゃんと一緒にカラオケに行ったときに歌っていた懐かしい曲を、多香子さんがアカペラで歌い出した。  私はノリよく手拍子を送る。すると、他の誰かも手拍子を始め、それがどんどん大きな音になっていった。 「次、俺歌います!曲は『若者たち』」とオジサンと思われる声。 「次、アタシ歌う!カナちゃんの曲!」若い女性も歌いだす。  本当ならネット上の動画などの伴奏もあった方が良いのだろうけど、携帯電話が圏外になっているからネットに繋がらない。  それでも皆、アカペラで気持ちよく歌っている。  曲のチョイスの年代幅が広いけど、意外に皆カラオケに乗り気で助かった。  1番だけを歌う人、フルコーラスで歌う人、伴奏部分まで歌っちゃう人、調子っぱずれの人様々だった。  狙い通り、手拍子をしていると身体が温まってきた。  しかし、何曲も続くと腕が疲れてくる。 「さぁ、すずちゃんも歌いなさい!」と多香子さん。  あ、私か。  選曲を悩んだ挙句、某ロボットアニメの主題歌を歌った。  脳内で伴奏を流すので、歌わない部分は無言になるので少し恥ずかしかった。  それでも少し、手拍子で疲れた腕が回復出来た。 「すずちゃん、凄い。迫力ある歌だねぇ!」と多香子さんが私を褒めたことで、皆のカラオケ熱に火が付いた。 「26人歌ったからー、あと一人誰が歌っていないのかしら~」  ーーー多賀子さん、数えていたんだ。  その質問に「……美羽、です」と子供の小さな声。 「美羽ちゃん、おいくつかな?」と私が尋ねる。 「7歳」 「じゃあ……『森のくまさん』って歌えるかな?」 「うん!」  元気のよい返事が暗闇から聞こえると、 「たららた~ら~ら~ら~ら~…」と誰かが前奏を歌い出した。 「あるーひ、もりのなーか……」美羽ちゃんが一生懸命に歌う。  私達は手拍子や歌詞のガイド、コーラスに勤め、今日一番の盛り上がりを見せた。 「楽しかった!」美羽ちゃんが歌い終わった時、そう叫んだ。 「美羽ちゃん、上手だったよ」と私の呼びかけに、暗闇からの返事は無かった。
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