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第五話
そんなこんなでここ暫くは、実家には仕事以外では余り顔を出さなくなった。妻にも仕事だと言って帰りを遅くして、休日は仕事と称して小谷のアパートで駄弁っていた。小谷はそんな彼の妻と実家の板挟みの事情は問うてない。と謂うより言われもしないから介入を避けていた。それがとうとう菜摘未から、間接的に兄を連れて来て欲しいようなニュアンスを受け取ったから十和瀬に訊いた。
「俺は仕事では良く行くが無駄話はしないんだ、注文が済めば直ぐ帰るから俺が仕事以外であの家に行くのはもう半年以上は経っているからだろう」
「お前の家だ! どうしてそう遠くはないのにゆっくりしないんだ」
「結婚して別に所帯を持ってからは妻の希実世の方に気持ちが遠のいていたからなあ」
嘘吐け! と思った。
「それだけか、じゃあ俺の部屋に最近は頻繁に来るようになったのはどう何だ」
十和瀬が最近になって頻繁に来るようになったのは妻との不仲しかなかったが、どう言う状態かは聞いていない。彼奴も話さないから原因も度合いも解らないが知ろうともしない、余程でなければ不介入だ。それで付き合いが長く続いた要因にもなっている。
「俺の生まれた家だッ、それにちゃんと顔は見せてるから困ることはないだろう」
「ならどうして仕事以外で実家に行かないんだ。そろばんなしでは話せない事情があるのか」
「ない!」
「じゃあ菜摘未が急に俺を呼び出して来たのはどう言うことなんだ」
「あれから中々俺を誘い出す名目に事欠いていた。そこで妹は香奈子を計算に入れて先ずお前に電話したのだろう。だから妹の電話はお前には福の神だ。そう思っての気遣いだと思え」
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