第六話

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第六話

 菜摘未にそこまで見透かれているのは、矢張り十年以上も二人を傍で見続けていたからなのだろう。 「お前との付き合いは正確には十三年だろう」 「なんだ急に」 「菜摘未とお前とは三つ違いなんだろう」 「お前の云う正確さに合わすと三つ半だ」  俺もお前も二十八になったばかりだが、妹は半年前に二十四になっていた。 「それがどうしたんだ?」 「上手いこと菜摘未に二人とも呼び出されたっちゅう事だ」  それでも十和瀬は暢気に構えて、菜摘未の用件に至っては気にしていない。この辺が彼奴の欠点だ。特にデリケートな女心を十和瀬幸弘は気付かないのが余計に相手を苛立たせる。これが積もり積もって十和瀬幸弘が二年前に築いた家庭は今崩壊の危機に(ひん)していた。小谷は予想していたとはいえ、彼奴の妹や妻に対する無神経な性格は、本当の愛を語る言葉を持たない(やつ)には勧告のしょうがない。またそんな相手が現れても受け皿を根本的に直さない限りどうしょうもなかった。一方の菜摘未も兄に似て、恋敵の香奈子を疎んじるどころか、あれからも言い寄っていたらしい。 「妹は直接香奈子に云えない物があるから、どうしてもお前に聞いても貰いたいらしい。どうせ半年もうやむやだったのだから大したことじゃないと思う」  どうやら菜摘未が、その辺を確かめたくて小谷を呼んだ。ついでにわざわざ小谷から兄へ来るように頼んだのが、一番真面な推理だ。 「十和瀬、お前、菜摘未が俺を呼んだ本当の理由を知ってるのじゃないのか」  肝心の十和瀬はこの件に関しては沈黙処か、急に話題を小谷が気にする香奈子さんに切り替えて、妹処か妻の事まで此処では話さないようだ。
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