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「ノビルはね、ヒガンバナ科ネギ亜科ネギ属の多年草なんだよ。日当たりのよい土手や道端に生える野草で、全体の姿や臭いは、そう、小ネギやニラに似ている。花にムカゴをつけて繁殖し、葉と地下の球根は食用になるんだよ。めっちゃ、昔から食べられていたといわれる。すごくない。」
学校の帰り道に見つけたノビルを片手に満面の笑みで語る彼女。可愛いすぎる。
『その雑学に向ける情熱をちょっとでも勉強に向けたら、成績はのびるのに。』
心の中で思ったが、僕は自分の鼻の下がのびているのに気がつかなかった。
「何よ。人が一生懸命教えてやってるのに、ニヤニヤしちゃって。ひどくない。」
上目遣いでちょっと怒った表情がたまらない。抱きしめたくなる。
「いやね。君がノビルを料理している姿を想像してたんだ。どんな料理になるか、興味あるしね。」
「ふーん。そうなんだ。あやしいなあ。」
両手を背中に僕の顔をガン見してくる。夏服のカッターシャツの上からでもわかる自称Cカップの胸を押し付けてくる。健全な男子高校生には刺激が強すぎる。
『近い。近すぎ。これは、拷問だ。鼻血が出たら、どうしよう。』
必死に耐える僕の心の声を聴きとったか、彼女はサッと離れて、ニコリと笑った。
「まあ、そういうことにしておきましょう。料理楽しみにしておいて。」
「わかった。楽しみにしているよ。胃薬買ってね。」
「このやろう。とっちめてやる。」
僕は、彼女が初めて僕のためにつくってくれたパスタを思い出したんだな。ルーはレトルトでガチで美味しかったんだけど、茹で過ぎたんだよね。のびきっていた。
二人で大笑いしながら食べた思い出がよみがえる。
僕のネクタイをつかもうとムキになった彼女から逃げる僕。
二人の影は夕日で川原の道にのびて、やがて重なった。
夕焼けがとってもきれいだ。
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