【了】殿下、そんなに溺愛されても困ります!

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【了】殿下、そんなに溺愛されても困ります!

 あの日、虹魔法で王立学院をぶっ壊してから暫く。  レイト様の指示により、学院の校舎はものの数日で元通りに……いや、むしろ豪華な見た目に生まれ変わっていた。  また、変わったことと言えばもう一つ。  王立学院に通う学生と、教鞭を振るう先生たち一人一人に対し、改めて一から試験を行うことになったらしい。  理由は単純で、王立学院に関わるに相応しいか否かを見極めるためだそうだ。  この件に関しては王族が主体となっているので、反発する意見があっても逆らうことは実質不可能だった。  そしてその役目を果たすために先頭に立って行動したのが、他ならぬレイト様だ。  レイト様曰く、「きみとぼくが入る学院だぞ? ぼくよりも馬鹿な先生は必要ない。そして同じ学院に通う学徒に猿も不要、人だけで十分だ」と少々辛辣な意見を口にしていた。  その結果が、これだ。  大半の学生と先生たちが退学処分とクビになり、王立学院を去ることになった。  もちろん、ひと悶着あったわけだけど、そこはレイト様お得意の王族パワーで強引に封じ込めてしまった。王族、恐るべし……。  で、肝心のわたしはと言うと……。 「やあ、リリア! 今日も迎えに来たぞ!」 「……殿下、部屋に入るのは、この際だから許しましょう。ですがせめて、せめてノックだけはしてくださいと何度も何度も言いましたよね?」 「ああ、確かに言っていたな。だがすまない、きみに会いたいという気持ちが強くなりすぎて、ノックする時間すら勿体なく感じてしまったんだ!」 「本当は?」 「寝顔が見たかった! あと、もしかしたら着替えの最中かもしれないから――」 「今すぐお帰りください」 「そんな殺生な!!」  わたしの部屋に勝手に上がり込んだレイト様は、その場で両膝を付いて拝んでくる。 「なんでわたしに対して拝むんですか」 「きみに許してほしいからだ!」 「はぁ……もう分かりましたから、止めてください」 「よし、止めよう! だがリリア、ぼくから一つ文句を言わせてもらうぞ!」 「ダメです」 「ダメかっ!!」  せっかく許したのになんで文句を言われなくてはならないのか。  ……でも、それも言わせてあげないと、きっとレイト様はこのまま駄々を捏ね続けるに違いない。全く、子供なんだか……。 「もう、……何ですか、文句って」  訊ねる。  すると、レイト様は嬉しそうに顔を上げ、けれどもすぐに文句を言うための表情を作り込んでみせる。 「ぼくを殿下と呼ぶのは止めてくれ! ぼくのことはこれまで通りレイト、と名前で呼んでほしいと言ったよな!」 「そんなことですか」 「そんなことじゃないぞ、これは重要な事柄だ!」 「……そんなに呼ばれたいんですか? 名前で」 「ああ、無論だ。その相手がリリア、きみだと、ぼくは天にも昇る気分になるだろう」 「病院に行きます?」 「必要ない!」  暫しの沈黙。  それから、わたしはため息を吐いて諦める。 「……レイト、……様」  少し恥ずかしがりながらも、レイト様の名を呼んだ。 「様は必要ない!」 「殿下に様を付けないのは不敬罪に当たりますから無理ですね」 「ぼくが許す! というかまた殿下と呼んだな? 名前で呼ぶように!」 「許さなくて結構です」 「では許可する! 許可ならいいだろう?」 「許可されても様は付けますね」 「くっ、ではぼくはどうすればいいんだ!」 「このままで我慢してください」 「我慢できるわけがないだろう! ぼくはこんなにもリリアのことを愛しているというのに!」  正直、鬱陶しい。  まさか引き籠りのわたしのことを好きだという人が出て来るとは思ってもみなかった。  それも、この国の第一王子だというのだから驚きだ。  ……いや、違う。それは間違いだった。  今のわたしは、引き籠りじゃない。  引き籠りだった、だ。 「……ふわぁ」  一つ、大きな欠伸をして背伸びをする。  それからわたしは、レイト様に向けて手を伸ばした。 「なんだ?」 「手、取ってください」  言うと、レイト様がわたしの手を掴んでベッドから起こしてくれた。  そのまま身を任せて……。 「……ん」  ギュッと、抱き締めてもらった。 「おはよう、リリア」 「……おはようございます、レイト」  様を付けずに、名を口にする。  今更、恥ずかしがっても、もう遅い。今のわたしはレイト様に捕まった状態だ。  だから、わたしは大人しく目を瞑る。  それから、どちらからともなくキスをするのだった。  これは、かつて神童と呼ばれたわたしが、再び日の当たる場所へと出るお話……かな?
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