【6】殿下? 何故にわたしの部屋に居るのですか?

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【6】殿下? 何故にわたしの部屋に居るのですか?

 その夜、夢を見た。  それは初等部で起きた出来事だ。  入学間もなく、先生たちはわたしを囲って何かと褒める言葉を口にする。  もちろん、褒められて嫌な気分にはならないので、照れながらもわたしは内心嬉しかった。  平民の出のわたしが、せっかく王立学院への入学を許されたのだから、将来のために真面目に勉強しなくてはならない。先生たちの期待を裏切らないように頑張るんだ。  だけど、先生たちとばかり話していてはダメだ。  ここにはわたしと同じ年の子がたくさんいる。一緒に学んで一緒に成長していく仲間たちだ。  一人っ子のわたしは、同い年の友達ができることが嬉しくてたまらなかった。  だから早速、声をかけた。  でも、何故だろう。  声をかけた子は、ごめんなさいと頭を下げてわたしの許を去っていく。  他の子に話しかけても同じだ。  わたしは友達を作りたくて色んな子に声をかけてみるけど、みんながみんな言葉少なめに離れてしまう。  王立学院に通うことができるのは、優秀な子ばかりだ。そのほとんどが貴族の出で、将来を有望視されている。  そんな中で、唯一平民の出のわたしは、話しかけるに値しない人間だったのかもしれない。  身分の差があるんだから当然だ。でもきっとすぐに仲良くなることができるはず。そう思った。  そんなとき、ヒソヒソ声がわたしの耳に届いた。 『あのこさ、もうまほうがつかえるんだって』 『へー、ほんとに? それぜったいおかしいよね』 『まぞく? とけいやくしてるってはなしだよ』 『あー、そうだったんだ? やっぱりそうだとおもったんだよね』 『っていうかさー、あのこってほんとはばけものなんじゃないの?』  残念ながら、それは淡い夢だった。  当時まだ六歳だったわたしは、同級生たちだけでなく、王立学院に通うほぼ全ての貴族の子たちから、共通の敵として認識されていた。  初等部に入ってからの六年間は生き地獄だった。  何をしても化物扱いされる。  言葉もかけてもらえない。こちらから話しかけても距離を取られる。  そして気付いた。  これは、わたしが魔法を使えるのが原因なんだ。  神童と呼ばれなければいいんだ。【虹魔】の称号を貰ったのが始まりだったんだと。  そう理解したわたしは、その日から魔法を使うのを止めた。  すると、わたしの周りで変化が起きた。  中等部に入ると、みんなの態度が変わったのだ。 『ねえ、ノルトレアさん? ちょっといいかしら?』  なんと、同じクラスの子に話しかけられたのだ。  嬉しかった。  魔法を使わなくなったことで、わたしは念願の友達を作ることができる。  そう思ったのも、ほんの僅かな時間だけだった。 『ノルトレアさんって、子供の頃は神童って呼ばれていたんでしょう? なのにどうして、今はそんなに馬鹿なのかしら?』  面と向かって、馬鹿と言われた。  その子がわたしを馬鹿と言った瞬間、教室中で笑い声が木霊した。  同級生たちは、わたしを笑い者にすることを決めたようだ。  かつて神童と呼ばれたわたしも、歳を重ねるごとに化けの皮が剥がれ始めた。【虹魔】の称号には不相応だった。もはやただの人、ただの凡人に成り下がった。今では中等部一の馬鹿だと、嘲笑われた。  初等部の頃には化物と呼ばれ、中等部では馬鹿扱いされる。  あれだけちやほやしてくれていた先生たちも、わたしが馬鹿だと分かると途端に手のひらを返し、無視するようになっていた。  ……なるほど。  ここには、この場所には、わたしの居場所はないってことか。  平民の出のわたしが望んではならなかった。  初めから無いものねだりをしていたというわけだ。  ちょっと褒められたからといって、背伸びして王立学院に行くものではない。そのことをようやく理解した。  ……でも、もう遅い。  今更他の学校に行っても、わたしは誰のことも信用できないだろう。  どうすればいい?  これ以上、ここには居たくない。  だったら、答えは決まっている。  だからわたしは、学院に行くのを止めた。  そして家に引き籠るようになった。      ※  目が覚めた。  物凄く嫌な夢を見た……。 「……はぁ」  これはあれだ、昨日、レイト様と言葉を交わしたのが原因に違いない。  今日はもう、大人しく自宅警備に徹することにしよう。  そう考えて二度寝をしようとした。  と同時に、視界の端に映る人物に気が付いた。 「――ッ!?」  掛布団を捲ってがばっと起き上がる。  見開いた両の目に映るのは……わたしへと笑顔を向けるレイト様だ。 「やあ、おはよう」 「ど、どど、どうしてここに……わたしの部屋にレイト様が!!」
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