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13.切り刻まれたドレス
ブランカは先日のウィルヘルムとの会話を思い出していた。
ついに言ってしまった。
そして、あれ以来、ウィルヘルムがエステル姫をお茶に誘ったり散歩に誘ったりするのはぴたっとなくなった。
きっとウィルヘルムは悲しんでいるに違いない。
ブランカはウィルヘルムに申し訳なくて仕方がなかった。
もう少し柔らかく言ってやれなかったものかと悔やんでいた。
そんな風に、ブランカが自室で物憂げに過ごしていると。「きゃあっ!」と悲鳴が聞こえたので、ブランカは侍女と顔を見合せた。
侍女は「すぐ行くべきです」と顔で促してくる。ブランカは頷いて声の方へと走って行った。
二部屋先で床に泣き崩れていたのはアリアーナだった。
「どうしたの!?」
ブランカが聞くと、アリアーナは無言で胸に抱えていた白い布を突き出した。
ブランカが受け取り広げてみると、それは仕立て上げたばかりのウィルヘルム用の衣装だった。エステル姫の衣装に合わせて仕立てさせたものだ。
しかしその衣装は無残にも切り刻まれており、5枚程の布切れになってブランカの手から滑り落ちた。
「まあひどい……」
ブランカは思わず唸った。
こんなことをするのはエステル姫しかいない。
自分とウィルヘルムのお揃いの服だなんて、人々に誤解を与えるような物は気に入らないという意思表示だろう。
ブランカは「ああ、最悪の事態を引き起こしていしまった」と自分を恥じた。そしてアリアーナに申し訳なさそうに言った。
「これは私のミスです、アリアーナ。あなたは悪くない。エステル姫の確認も取らずに何となく、曖昧に、お揃いでと勝手に話を進めてしまった私が悪いのです。エステル姫が気に入らなかっただけなんだと思うの。今から私が彼女に抗議に行くから……」
「もう結構ですっ!」
アリアーナは叫んだ。
「あの人は、いったい何様なんですか!? 私が自ら望んでこの仕事を引き受けたとでも思っているの? ブランカ様だってそうでしょ。ブランカ様の気遣いや献身を何だと思っているのか」
「アリアーナ、あなたが嘆くことじゃないのよ。私の勝手な判断なんだもの。エステル姫だってきっと言い分があるわ」
ブランカは慌てて弁解した。
「ブランカ様がなんでエステル姫を庇うんですか? 私はあの方のやり方を言っているんですよ。気に入らなきゃ口で言えばいいじゃないですか。例え勝手にお揃いの服を作られて腹が立ってもですよ、無言で切り刻むなど意地が悪いにもほどがあるじゃないですか!」
それはその通りなので、ブランカは黙ってしまった。
アリアーナだって望んでこんな仕事を手伝ってくれているわけじゃないのだ。こちらが無理に頼み込んでいるのだ。それに対してこんな仕打ち。
アリアーナが文句を言いたくなるのも分かる。
切り刻まれた白い布切れをアリアーナと二人でやるせない気持ちで眺めていたら、飄々とした顔でエステル姫がやってきた。
アリアーナはキッと睨んだ。
しかしエステル姫は気にも留めない。
ブランカは努めて冷静に聞いた。
「ウィルヘルム様の衣装が破損してしまいましたの。何か心当たりはございませんか?」
するとエステル姫はわざとらしく驚いたふりをして、
「まあウィルヘルム様のご衣装が?それは大変。では、私だけ別行動で、先にシェフィールド公爵様のところへ目指すことにしましょう。ウィルヘルム様は衣装が直ってから、ゆっくり後を追ってくださればいいわ」
と答えた。
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