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3.結婚の約束
しかしエステル姫は急に顔を曇らせた。
「でも、一つ問題があるのよ」
ブランカは怪訝そうな顔をした。
「いったい何の問題がございますでしょうか? パレードにかかる費用とか?」
エステル姫は深刻そうな顔をした。
「そんなんじゃないわ。もっと全然別の、もっと深刻なことよ。……ねえ、お父様ったら私を助け出した者を私の婿にするって言ったんですって?」
ブランカは頷いた。
「ああ、それは私も聞いた事があります。姫を助け出した者と姫を結婚させると。ということは、エステル姫はウィルヘルム様と結婚なさるってことですよね? まあまあ、それはめでたい話が二つ重なって。娘の帰還と娘の結婚……王様も大忙しですね。ご帰還のパレードでは、エステル様とウィルヘルム様の婚約の意味も込めて、お召しの衣装はペアルックを意識して──」
「ちょっと! ちょっと待って! 違うのよ!」
エステル姫は金切り声を上げた。
「はあ? 何が違うのでしょう?」
ブランカはきょとんとして聞いた。
エステル姫は顔色を変えて憤慨している。
「私はウィルヘルム様と結婚なんかしないわよ!」
ブランカはすっかりエステル姫の気迫に狼狽えてしまった。
「……えーっと、エステル姫はウィルヘルム様と結婚したくないってことで?」
「そうよ! だって、おかしいと思わない!? 私を助け出すことと、私が誰と結婚するかは、全く別の話じゃないの!」
エステル姫は拳を振り上げた。
「私はこう見えても一国の姫です。聞けばウィルヘルム様は爵位もない貧乏騎士だそうじゃないですか。どうしてこの私が貧乏騎士と結婚しなくちゃならないの!」
ブランカはエステル姫の不平を一蹴するように、
「大丈夫ですよ、ウィルヘルム様はエステル姫を助けた騎士ですよ、王様がたんまりお金をくださいます! 金も名誉もどーんとね。貧乏騎士だなんて今だけ! 将来のご心配はいらないかと思います!」
と、わざと明るい声で請け負った。
「あなた、それ本気で言っているの? 私の言いたいことがちっとも分かっていないのね」
エステル姫が余計にぷうっと怒る。
面と向かって「ちっとも分かってない」と言われてはさすがにブランカもたじたじとなった。
「……わ、私、何が間違っていましたでしょうか?」
「私の父が金も名誉も与えるって、それ、私の父のおかげじゃない。ウィルヘルム様はこれから王宮の貴族の世界を一から学ぶことになるのよ? そんな新参者、王宮の貴族たちにみっともないって笑われないかしら。お相手になる男性が恥ずかしいのは嫌よ。私をエスコートするのは感嘆の声が漏れるくらい洗練された男性であるべきなの。一流で、皆が一目置く男性こそが私に相応しいわ」
エステル姫は熱弁した。
「ね? あなただってそう思わない? ……だって、私は悲劇の王女なのよ?」
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