《占いの始まり》

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《占いの始まり》

 ある公園の広場には人だかりができていた。  よく当たるという占い師がやってきているからだ。当たる占い師は若い青年で彼が使用する占いは少し変わっている。  使用しているのはタロットとトランプを織り交ぜたカードでゲームにも使用できるという優れものなのだ。  これを開発したのは彼の恩師で親代わりの人間である。その彼は出張占いには来ておらず、本家でのんびりとやっているであろう。  青年は……海月は目の前に居る女性客の事情を訊いた。  付き合っている男性が居るのだが最近スマホで誰かと連絡を取っているらしく、自分と別れたがっているのかもしれないという内容だ。  いや直接聞けよなんて思うが喉元で抑え込み、海月は占いを始める。  カードをシャッフルし、地面に置いてさらに織り交ぜる。この女性はなにをすべきなんだと心中で問いかけながら、五枚のカードを右、左、上、下、真ん中に置いて開いてみた。  順にハートの2と、スペードのJ、弓矢の女の逆十字に、時計の正十字、そして真ん中は―― 「そうですね。あなたにとってその人がどれくらい大切なのかは知りませんが、今すぐに別れた方が良いですよ」 「そんな、どうしてですか!?」 「時計の正十字が出ていますがこれは時間の問題というものを表しています。次にスペードの5が出ています。スペードは彼がなにかしらの仕事に追われていて、あなたよりも大切な可能性が高いです。ただ、最後にはキューピットが出ている」  女性が不可解な顔をすれば「つまり、新しい恋人が現れるということですよ」そう告げたのだ。 「しかも弓矢の女が逆十字になっているから、先にアプローチされる可能性が高いですね。心当たりがあるんじゃないですか?」  すると女性の顔が真っ赤になり少し頷いた。「告白を受けたんです。でも彼氏が居るからって言って……」海月は首を横に振った。 「その人とまだ縁があるのなら付き合うべきです。今付き合っている彼氏よりもよき関係が築けますよ」 「あ……はい。勇気が出ませんが、頑張ってみます!」 「クレーム対応がありましたらこちらまで。それでは」  名刺を押し付けた先には『占い専門店 モグラ』そう書かれていた。  女性は呆気に取られぺこりとお辞儀をし、店から出た。  その姿を一人の男性と小学生くらいの女の子が興味ありげに見つめていたのだ。  海月という名前は変わっているが一応本名である。また容姿は占い師をやっているからか、チャイナ服を常用しており端正な顔立ちは雪のように白い肌を持っており高身長のイケメンだ。黒髪の短髪から覗く黒目は切れ長で、特に右目には三つのほくろが並列して並んでいる。  だがもっと変わっているところがある。それはモグラと居る時にわかることだ。 「ただいまです」  海月が帰る頃にはやはり店は閑散としていた。店に現れたのが海月だったのがムカついたのか店主は……モグラがげんなりとした顔をしてしまう。 「なんだよ~くらげかよ~。暇なんだよ~こっちはよ~」  ぶらぶらと足を上下に揺さぶって「暇だ~!」なんて言うモグラに海月は深く息を吐いた。 「また占いが当たらなかったんですか」 「インチキだって言われた! カード占いを開発したの俺なのに……」 「水晶占いも見えなかったんですか?」 「……見えなかった」  息を吐きぶすりとしているモグラへ海月は店に『営業中』と掲げた。 「まぁ占いは任せてくださいよ。モグラさんは多方面で色んな事されているから良いじゃないですか。……とか言って、占い教わったのモグラさんからなのでなんだか複雑ですけど」 「うっさいな~、腕が落ちただけだし!」 「それだけ元気なら占いのアシスタントとして手伝ってください。――あっ、お客さん来ましたよ。結構お金使ってくれる人だ。モグラさん、お茶を」 「……弟子のくせに」  さらにぶすりとしつつも前茶を淹れて上客に差し出したこげ茶の長髪チャイナ服イケメンは弟子に尽くすのであった。  次々と客を捌いていき、海月の占いは予想を上回るほど客が来てくれたおかげで閉まるのが遅くなってしまった。  閉まる頃合いにはくたくたで使った水晶を磨いたりカードを整理したり掃除したりして店を後にし自宅へと戻る。  先に戻っていたモグラが料理を作っていたらしく「作ったぞ~」なんて声を掛けて出てきた料理は―― 「お~豪華ですね。蜂の子の唐揚げにミミズのサラダにミルワームのスープだ。おいしそう」 「うまそうだろ~。ミミズなんて獲れたてだからな。まぁまぁ早く食べようぜ」  ゲテモノ料理をうまそうだという海月とモグラは白米にドライミルワームをふりかけて食し料理も食べていく。  うまいうまいなどと食しながらもモグラは思い出したように「海月さ」と言い出した。 「あれから十五年は経っただろう? いい加減、自分の占いでもしたらどうだ?」  ミミズを食した海月が噛んで飲み込んだ。 「えっ、でもモグラさん。自分自身を占うのは良くないって」 「でも俺が占いを教えた頃は自分自身の占いをしただろう? そうしたら、十五年後にまた占ってみろって言ってたじゃないか」 「まぁ……そうでしたけど」 「じゃあやってみろって」  蜂の子の唐揚げをつまみ終えて食べ終えると、モグラは占いを勧めてくる。海月自身もまぁ……なんて言いながら席を立ちあがりモグラと一緒に洗い物をし終えてから、占いを始めるのだ。  それは海月にとって運命の始まりであった。
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