《新たな運命》

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《新たな運命》

 美波の一目惚れ相手が変わり者の海月であったのにも驚愕と怒りが湧いて料理どころではなかったものの、仁田は渋々ながら調理を終えた。  兄たちも半信半疑ではあるが、美波の一目惚れ相手の海月に興味を示したのは言うまでもない。  海月にとっては居場所の悪い空間にて仁田はテーブルに天ぷらや蕎麦、そしてあおさの味噌汁やブロッコリーのマヨネーズ和えなどたくさんの料理でもてなしてくれた。  だが普段はゲテモノ虫料理を食している海月は首を傾けていて「これ、なんですか……?」などと手を合わせる前にモグラへ尋ねた。 「普通の家庭が食べる食卓の料理だよ。普段の俺たちの料理とは違うから戸惑うよね」 「はい。この丸いゴツゴツした物体とかなんですか? あと長細い棒とか……」 「……かき揚げにちくわ天なんだが」  家族たちへ手を合わさせて食していく仁田に海月は恐々としてかき揚げを箸でつまんで口へ運んだ。  サクッとしていてジューシーでうまみのあるかき揚げに海月は目を見張って「……美味しい」勝手に口を零していた。  すると隣でくっついている美波もにっぱりと笑って「これも美味しいよ!」そう言ってぎこちない箸捌きで海老天を海月の口元へ寄せる。  一瞬たじろいだが美波がぐいぐいと唇に押し付けるので仕方なく唇を開いた。  プリっとしていてジューシーなうまみが広がる。特に尻尾に当たる部分は虫と類似していてかなり美味しい。 「あ、美味しいですね。それに、あっと……ありがとうございます」 「ううん! 美波は平気だよ」  にこにこと微笑みながら海月に食べさしてあげている美波の姿を見て、父親と兄たちは呆然と見つめていた。 「まぁ未来は変わると言うけれど、海月の婿は良いと思うよ。俺が保証してあげるよ」  蕎麦を食し海老天を食べながら蕎麦湯を飲んでいるモグラはにっこりと笑っていた。  食事を終えて帰宅しようとすれば海月に「お礼で水面占いでもしてあげれば?」縁側で茶を啜られながら勧められたので、仕方なくすることにした。  海月は恩師で親代わりモグラの言うことは聞く。というか、弱いのである。  水瓶はないのでたらいを使わせてもらった。聖水ではないが山から引いている水を使用して、少量の砕けた水晶を流し込む。  普段よりかは的中率が下がってしまうかもしれないが、今夜は満月だ。満月の日は水面占いに適している。  満月は少量の水晶であっても大きな力をくれる。 「こんなんで見えんのかよ?」 「ちょっと兄さん、占いしてんだからちょっかい出さない方がいいよ」 「だって水晶入れて水汲んだだけでな~。信じられねぇっていうか」 「まぁまぁ二人とも。海月が集中しているからあんまり話しかけないでね」  モグラの一声で双子が返事をすれば、海月は瞳を閉じて心中で問いかける。  この先の未来を教えてください。ご家族が安心して暮らせるように予知してください。  黒く鋭い瞳が開けられる。――すると水面には三重と甲斐がなにかに追われている姿が映っていたのだ。 「なんだ……? なにに追われているんだ?」 「なにが見えたんだよ?」  三重がじっと見つめてくるので海月は今見たものをモグラを含めた三人に話した。甲斐は「また面倒ごとが起きるのかな?」そう不安げになり、三重は「なにかあったらぶっ飛ばしてやる!」なんて調子の良いことを放てば、後ろから仁田に殴られ「また訴訟でも起こされたら追い出すぞ」強面の顔で脅されてしまった。  だがモグラは違う。 「ふ~ん、三重くんと甲斐くんがね。それは少し心配だな。……学校帰りでも良いから、また占ってあげれば?」 「……水面占いは五千円からですけど」 「げぇ! 五千円もすんのかよ、高っ!」  三重がインチキ臭いのになどと言っているが無視をしふて腐れたようにモグラへ苦言を吐けば「まぁカード占いでも良いじゃん~。また虫を持ってこさせれば良いでしょ?」茶を飲み終えてにっこりと笑う。  まぁ虫だったら……というのもあったので、海月は三重と甲斐にも本店への住所を記した名刺を渡し、「学校帰りにでも来てください」冷たい声質だが一応言っておいた。 「でも美波も占われていたから気になるよね。兄さんも気になるんじゃないの?」 「きっ、気になんねぇよ!」 「ふ~ん、どうかな~」  甲斐がタレ目の黒い瞳で興味を持ったようで海月へ「来させてください」微笑んで礼を告げた。  海月は「来なくても怒りませんからね」念押ししてモグラと共に仁田宅を去るのであった。  満点の星空に目を躍らせながらモグラと共にバス停に向かっていた。仁田宅からバス停までは二十分ほどかかるが、バスは意外にもあるので育児で忙しい仁田に頼らずとも帰ることが可能であるのだ。 「奇麗ですね、星」 「本当に奇麗だよな~。さすがバスで一時間はかかるけれど、行ってよかったなって思うよ。……バスの交通量多いのも、そうなのかな?」 「不便だから区民が訴えたんじゃないですか?」 「そうかもね~」  間延びした様子で話し出す海月とモグラではあったが、ふとモグラがこちらを見た。モグラの王子様のような顔立ちは、星空だときらめく星の王子さまのような雰囲気を醸し出される。……チャイナ服であるが。 「さっきの占い、どういう意味なんだろうね。三重くんと甲斐くんのこと」 「知りませんよ、そんなの。なんかまたやらかすんじゃないですか? こっちまで迷惑を被るのが困りますけどね」 「……海月のことに関してかもしれないじゃん」  モグラのふとした言葉に海月は声を躊躇ったが「そんなことはないですよ」バス停へと着いてからはモグラとは普段と同じように会話をした。  そして帰宅して二人は別々に眠るのだ。  
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