《モグラの七変化》

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《モグラの七変化》

 渋々といった様子の男性は自分を仁田(にった) 蓮司(れんじ)と名乗った。農家をしており美波を含めた男女含めて八人の子供を養っているらしい。  妻は美波が産まれた頃に病死をし、男で一つ子育てをしてきたようだ。  ブロッコリーを栽培しているようだが最近は経営不振らしく、しかも子供たちがまだ手が掛かるとのことであまり金は出せないらしい。 「そんで仁田さんはなにを占って欲しいの? 金がないのなら素直に言った方がお金かからないよ。ねぇ海月?」 「まぁそうですね。ちょうど水面占いもやっていましたし、聖水や水晶にまだ力があれば見ることも可能ですから」  仁田には玉露を、美波にはオレンジジュースを淹れて二人は話を聞くことにした。どうやら昨日の海月の占いが当たってしまったらしく、双子の兄弟が事件を起こしてしまったのだという。 「三男の三重(みえ)がやっちまったらしいんだがな、弟……まぁ四男の甲斐(かい)がカツアゲされているのを見て殴っちまったんだ。しかも甲斐も止めに入ろうとしたんだが逆に相手を逆上させちまって……警察沙汰になっちまってよ」 「カツアゲだったら向こうに責任があるからなにも問題がないんじゃ……」 「その向こうの親御さんが訴訟を起こしたんでしょ? 四男の甲斐くんだっけ? その子に侮辱罪かなにかで訴えたか、もしくは三男の三重くんが逆に喧嘩を吹っ掛けたんだ……とか言ってさ」  どうしてわかるんだと言いたげな仁田にモグラは「なんとなくね」そう言って玉露を飲むように勧めた。  勧められて一口飲み「うまいな」そう告げて口を付けた仁田に海月は唸りだす。 「普通なら弁護士を立てるべきなんでしょうけれど、モグラさんが言う限りは弁護士を立てる感じではなさそうですね……」 「……モグラ?」 「あぁ、俺の名前だけど気にしないで。――仁田さんさ、手持ちいくらくらいある?」  すると仁田は千円札を二枚差し出した。さすがの海月も「二千円はちょっと……」などと疲弊を吐き出している。  昨日はお試しで千円の水面占いをしただけであって、水面占いはあらゆる面で力を使うので普通ならば五千円は費用として頂戴をする。  だがその代わり、的中率はカード占いよりも数段当たりやすく、しかも水面下で映った出来事に関してはモグラも力を貸してくれるというものだ。  出来事を予測して、逆に出来事に関してアフターサービスが充実していることから人気となっている占いである。  その最低限な金額でさえも払えないとは……などと考え、追い返してしまおうかと海月はモグラへ目で訴えれば、彼はニヒルに微笑んでいた。 「仁田さんさ、農家やっているってことは虫とかさぞ出るよね?」 「虫か? あぁそりゃ出るさ。農業やっているからな。幼虫やら害虫やら出て困りものだ」  茶を啜りながら苦笑する仁田と「でもちょうちょさんのサナギも見られるんだよ! 楽しいんだよ~」オレンジジュースを飲みながらなぜか海月へにぱにぱと元気に笑う美波に戸惑いつつも海月はぎこちなく微笑んだ。  幼い子供の、特に少女の相手などわからない。 「じゃあ交渉しよう。海月の占い次第であんたの弁護士関係の話に力を貸してあげる。ただその前に前払いで二千円と、その虫たちを俺たちに少し分けてくれることを条件で考えてあげるよ」 「虫をか? それにこいつは海月って言うのかよ。それも本名か?」 「えぇ、本名ですけど」 「……変な名前の占い師だな」  さすがにキラキラネームの占い師など信頼しねぇよなどというような瞳で見つめられ、占いを中断しようかと思ったが「海月、占ってごらん」モグラに笑いかけられて一応占うことにした。  まだ聖水の力はある。水晶の力も十分にある。  海月は心のなかで、仁田の状況を踏まえたうえで心中に問いかけた。  仁田がすべきこと。これから仁田がなにをすれば良いのか。  すると水面にはスーツを着たモグラが何者かと争い、そして仁田の家族と共に食事をしている姿が映った。 「……どういうことだ?」  首を傾げ今の状況を二人に話せばモグラは納得している様子だが、仁田は当惑を通り越して唖然としていた。 「なんで俺がこいつにメシを出すんだ? 意味がわからん」 「そう言われても……だったらあと三千円出してくれませんか。水面占いって神経使うから疲れるんですよ。そしたらもう少し見てあげますけど」  茶を啜りながら苦言を強いる海月ではあるがモグラは「俺の出番だな」と言って張り切りだしたのだ。  一瞬、当たりもしない占いをしだすのかと思えばモグラは仁田の手を握り「俺が弁護してあげる!」なんて言い出したのではないか。  さすがに冷静クールイケメンこと海月も、無精ひげを生やしていて強面の仁田も混乱していた。  だが本人はノリノリで「久しぶりに弁護士やるな~」などと抜かしている。 「あのモグラさん……。弁護士の資格持っていましたっけ?」 「えっ、持っているよ? 俺、占いはできないけれどほかの資格は大体持っているから」  鼻を鳴らし自慢げな様子のモグラに海月はさらに唖然としてしまう。この自信たっぷりな様子だと本当であるだろうと海月は踏んだ。  そういえばと海月が頭を過らせれば、自分がモグラに助けられて拾われてから金に困ったことはなかったなと感じてはいた。  特にモグラが働いている姿を間近で見たことはなかったが、占いの勉強をしながら義務教育なども受けずに大体の教養科目を習得できたのはモグラの努力の賜物だとも思うが、貧困で困ったことはない。  普通に食事もしていたし、親子のようにテーマパークへ行くこともできた。  こうやってぎこちないが笑えることができるのも、モグラが傍に居てくれたからだ。  海月はモグラの金銭関係に疑問を抱いた。 「まぁ俺には金の運が付いているからね。金にはそこまで困らないわけよ。そんなことより、打ち合わせしたいからお宅訪問しても良いかな。その兄弟にも興味あるし事情も訊きたいし、それに……」  モグラはにったりと含んだように微笑んだ。 「虫が食べられるのは良いよね~! ミミズも幼虫もカエルもいるよね? うわ~い、楽しみだ!」 「はぁ?」  ゲテモノ発言で嬉々としているモグラを仁田は宇宙人でも見るかのような疑心な瞳で見るのだが、「弁護士さん、すご~い!」などと美波は海月を見てはしゃいでいたので海月はやんわりと訂正をしたのだ。
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