《打ち合わせ》

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《打ち合わせ》

 出張占いを早めに終わらせてモグラと待ち合わせをし、スマホで仁田の家に向かった。  海月は通常通りチャイナ服だがモグラはクリーニング仕立てのスーツを着ている。  濃紺をベースにしたスーツにストライプ柄の水色のネクタイを締めてネクタイピンを嵌めている姿は、普段のだらしなく居座っているモグラとは雲泥の差であった。  こげ茶の髪も結んでしっかりとしている姿は普段よりも精悍な顔立ちが際立って見える。……だが本人は「スーツって久しぶりに着るから、なんか堅苦しいね」などと腑抜けた発言をしていた。海月は普段と同じようなモグラに安堵した。   バスに一時間ほど揺られて着いた片田舎は歩けば歩くほど田舎さが極まった。こんな田舎があるのだなとも思ったが、田舎は空気が澄んでいて時折浮かぶ星空を眺めて奇麗だなとも感じた。  大規模な土地を背に一軒の住宅が見えた。  少しぼろそうだが広い感じが伺える住宅にモグラがピンポンを押せば、一人の青年が顔出した。 「どうも~、占い専門店モグラ店主のモグラです~。仁田さんのお宅で合っていますか?」 「あぁ、馬鹿な弟たちの弁護をしてくれる変わった人……じゃなかった。優しい人たちですよね。初めまして。長男の一馬(かずま)です。父は今、次男の啓二(けいじ)と一緒に取引先との会議をしているので、俺が対応します」 「あぁそうなんだ。よろしくね」 「弟たちがお世話になります」  頭を下げた一馬は海月と同じくらいかそれよりも上に見えた。だが粗茶貰い、話を聞いてみると一馬は大学で経営学を学んで農業のマーケティングの参謀として尽力しているらしい。次男の啓二が農家を継ぐらしく、大学で学びながら父親の元で修行中なのだそうだ。  そう思うと大学に出している分、仁田もケチではあるが家庭想いの優しい親父だというのがわかる。  きっとやりくりをして大学に出さしてあげているのだと思うと涙ぐましい限りだ。 「それで三男と四男の双子の兄弟くんはどこかな? まさかどこかで油売ってなんかしてないよね?」 「さすがに裁判沙汰になったら困るので今は謹慎中にさせています。高校にもそう言われていますし。――今、呼んできますね」  一馬が立ち上がり二階へと繋がる階段へと呼ぶと二人の青年が恐々としながら現れた。  一人は茶髪の短髪でおちゃらけていそうなイケメン……恐らく三男の三重だ。  もう一人はビクつきながら現れた黒髪に短髪で弱々しい感じだが、よく見るイケメンな青年……四男の甲斐だ。  二人はビクつきながら座卓へ座り、スーツ姿のモグラを見て「俺たちは悪くない」そう言ったのは三重であった。三重は勝ち気そうな瞳で「甲斐をいじめてきてからブツ飛ばしたんだ。そしたらおおごとになって……」などと言ってはいるが涙目になっている。  すると甲斐が「兄さんが殴ったからこんな風になったんだよ。……警察に届ければ示談金受け取れてかもしれないのに」深く息を吐いていた。  海月は二人の会話を整理した。 「つまり甲斐さんはカツアゲされる目的でカツアゲに遭って、それを三重さんに邪魔をされたってことになりますよね? それで、喧嘩を止めようとしてあらぬことを言ってしまい、侮辱罪と暴行罪に繋がった……と」 「……まぁ、あんまり覚えてはいないけど言ったのかもしれませんね。でも、言ったとしても兄さんにだし、兄さんも僕も殴られていたからおあいこじゃないですか?」  確かに三重の左頬には湿布が貼付してあった。しかも怪我を見せてもらったらあらぬところまで怪我をしているのが伺える。それは弟の甲斐も同じく、打撲などの怪我もしていた。 「でも向こう側には弁護士がいるんですよね。モグラさん、でしたっけ? こういってはなんですが、お任せしても良いのか俺には判断がつかないのですが……」  茶を啜ったモグラは「弁護士の特徴とか言える?」そう尋ねてきた。尋ねられた一馬は首を捻ってから思い出すような顔をした。 「えーと……。三重に喧嘩を吹っ掛けた奴が火の神を信仰しているから、その推薦で弁護士が格安で置けたと聞いています。勝訴に関しては、結構強いから覚悟しろって脅迫するように言われたので、父も内心では不安がっていますね」  太い息を漏らしている一馬と罰が悪そうにしている三重と甲斐ではあったが、海月は違っていた。  火の神……まただ。また火の神とモグラが争うのかと思うと、これは果たして運命なのかと思ってしまう。 「それは脅迫罪として残せるね。うん、大体はわかったよ。前金で二千円受け取っているから、あとは残せる分だけの虫をこちらに渡してもらえば、弁護として俺が先陣を切って必ず勝訴に向かわせてあげるよ」  運が良かったら向こうが示談でお金が舞い込むかもね~と言い切っては席を立とうとするモグラに海月はあとを追うように席を立つ。  だが真面目な一馬は納得をしていない様子だ。 「もっと金をせびらなくて良いんですか? 訴訟もんでしょう?」 「じゃあ払えるの? 勝訴に持ち込めるのなら万単位で組み込んでも良いんだけど」  一馬は冷や汗を垂らし双子は青ざめた表情をした。さすがに万単位はいくよな……などと呑気に思っている海月ではあったが、モグラは微笑んでいた。 「俺はその火の神に用事もあるし、虫も頂けるってなればそれで良いんだよね。火の神に文句言えるし、虫も食べられるなんて一石二鳥じゃん。……ちょうどミミズの酢漬けが無くなってきたし」 「え、虫を……食べるんですか?」 「うん。虫が主食だからね」  じゃあお暇しますかなどと言って玄関へと向かい、扉を開ければ満点の星空と澄んだ香りがした。  モグラは深く吸い込んでは「近いうちに訴訟を起こした被害者と弁護人と話をつけるから、名刺かなんか持ってる?」自信ありげに問いかければ、一馬は一回部屋に戻ってから名刺を取り出し、それを海月が撮影をした。  二人は仁田宅をあとにし、帰りのバス停に向かう最中で海月が呟く。 「本当に勝てるんですか? しかも運が良ければ相手が示談で払わせるなんて大見えきって」  夜空を見上げたモグラがほくそ笑んだ。 「絶対勝ってみせるよ。……ミミズと幼虫とカエルの為ならね」  ど~んな料理にしようかななどと歌いながらバス停で待つモグラに、海月はうんざりを通り越して安堵した。  
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