《第二の戦い》

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《第二の戦い》

 仁田たちにはあえて知らせず、スーツを着たモグラと同じくスーツを着た海月は被疑者宅に赴いた。  海月はスーツが着慣れていないので堅苦しさを感じさせるのもあり、弁護に立ち会うというのも初めてであったので緊張気味である。  モグラは手土産に有名店のカステラを持っていきピンポンを鳴らした。被疑者宅には弁護士も立ち会っているのは知っている。  出てきたのは太った女性であったが、端正な顔立ちをしたモグラが深々と礼を下げればすぐさま入れてくれた。  しかも美青年の部類に入る海月にも興味を示し、床の間に入れさせてくれて茶を勧めてくれた。  絶対この人、顔で見てるよな……なんて思いながら海月は奥の間を見ると、火の神を祀っているのが見えた。  火の神は厳かでいつも怒っていそうな神であった。 「あなたですね。仁田という息子が被害者の福原さんの息子さんに怪我をさせたというので弁護に扱ったという人物は」  床の間で茶を啜っていると現れたのはインテリな眼鏡を掛けた男性であった。恐らく弁護士であろう。  ちなみに息子は謹慎中であるにも関わらず会っていない。先ほどの女性……母親がはぐらかしていたが、謹慎中であるにも関わらず遊びに行っているなどというような言葉を弁護士に向けて謝罪をしていた。  いわゆるバカ息子であった。 「まぁまぁそんなことも言わずに、カステラどうです? 結構美味しいんですよ、このカステラ。一番評判が良いのを買いました」 「……馬鹿馬鹿しい。カステラでことを済まそうとしているのですか?」  それでもモグラが余裕綽々でカステラを口に運び、茶を啜っている。弁護士がカチンと来たようだ。 「あなたの弁護している方々には恐喝罪と暴行罪が出ているんですよ。なにを悠長な」 「それはお宅の被害者……いや、被疑者だって同じでしょ? 先に喧嘩を売ったのはあなたが弁護する方ですし、恐喝罪も聞いている限り圧がありましたね。俺は仁田さんのご家族とはある約束をしているので、引くことはできません。お互いの平和を願って互いに謝罪すべきだと思いますよ」  弁護士がフレーム眼鏡を上げた。 「……少し表に出てくれませんか? そこの青年と一緒にね」  舐めるような視線を向けられ海月は心臓を掴まれた気持ちになったが、モグラと一緒に外へと出た。母親は不安げな顔をしていたがモグラの営業スマイルで「席を外しますが心配しないでくださいね」などと言ってしまえばノックアウトであった。  恐らくモグラの爽やかで甘い顔立ちがタイプなのだろうなと海月は踏んだ。  表へ出た三人であったがフレーム眼鏡を掛けた弁護士が眼鏡を上げた。 「そちら側が謝罪をしてくれませんかね。こちらは火の神を敬っている家庭を重んじていますから株を上げたいんですよ。……バカ息子もおだててしまえば、火の神様の供物に捧げられますしね」 「ふ~ん。口ぶり的に俺のこと知っているみたいだね。……じゃあ狙いは海月か」 「まぁそういうことになりますね。火の神様以外にも神々の方々が海の供物はまだなのかと言っていますよ。――相当、絶品に育っているようだと」  弁護士はひらりと翻し大きな鳥となった。炎を体内に宿し海月に向かって突進しようとするが、「土よ水よ、我の力を示せ」そう示したモグラが土の壁を火の鳥に向けて放つ。  だが火の鳥は土を焼き尽くしてしまった。しかしモグラは動じない。 「ふははははっ! 海を統べるモグラも大したことがないな! これであれば、わざわざ火の神……いや、火の鳥様が出る幕もあるまい」 「余裕な口ぶりな弁護士は嫌われるよっ!」  モグラは海月をわざと引き寄せ「土よ、我に道を示せ!」土にトンネルのようなものを作り出し、落ちて行った。  海月はわけがわからず土の中へ滑り込んでしまう。どうしてだが汚れないのが不思議である。 「ど、どういうことですか!?? モグラさん!」 「火は土にとって相性が最悪なんだよ。だから不意打ちをする」 「えっ!?」  光が見えたかと思ったら火の鳥の背後に来ていた。海月を傍らに担ぎながら、モグラは土と水を併せ持った回し蹴りをお見舞いする。  ドゴンッ! などと音がして火の鳥が唸りだした。すると海月は左足を軸にして「水よ、我に示せっ!」声と共に右足から竜のような水を噴出させ、弱っている火の鳥に向けて放ったのだ。  燃え盛っていた火の鳥は次第に火力が弱まり、赤いインコとなってしまった。小さな眼鏡にスーツを着ている珍妙だが可愛らしいインコに海月は唖然としつつも、モグラはわかっているようにインコの足を持って釣り上げて、意地悪く笑う。 「火の神……いや、火の鳥に伝えろ。海月に用事があるのなら、俺に直々に来いって。――隷属に頼るくらいのひよっている神に海月は渡さねぇってよ」  インコを宙ぶらりんにしてから手を離すと、インコは「ギィヤァー!!!」なんて珍妙に鳴いて空を羽ばたいていしまった。  羽ばたくインコに「飛んじゃった……」海月がモグラに抱えられた状態で呆然とすれば、モグラが地面を下ろしてくれた。 「さて。火のインコも去ったし、あの奥さんには適当な理由を付けて俺たちが勝った子にしよう」 「えっ、それで大丈夫なんですか?」 「だって仁田さんの双子はきちんと謹慎処分受けて謹慎しているのに、向こうはカツアゲして暴力したくせに謹慎中にも関わらずに遊び惚けているのはおかしいじゃん。そこらへんで遊んでいるだろうから、写真でも撮って見せちゃえば示談には持ち込めなくても謝罪で済むでしょうよ」  悪戯に微笑んだモグラは家に居る被疑者の母親に探りを入れて息子の居場所を突き留め、ゲームセンターでたむろっている息子の写真をちゃっかり撮影して提示をした。  そして反省の色が見えていない息子や家族へ「反省の色が見えていないようですよね?」などとモグラがにっこりと恐喝すれば、家族は手土産を持って仁田の家族へ謝罪をしたのであった。仁田たち家族はさぞ驚愕したという。
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