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《エピローグ》
幼い少年は拘束具を付けられたまま海へと投げ出された。満月の海に投げ出され、深い海に落ちる少年は息を潜め瞳を閉じようとする。
自分は海の供物というものになったというのをずっと幼いことから言われ続けていた。
父親も母親もろくでなしで、少年には居場所がなかった。
海がきらめき海中を見る。――奇麗だ。
こんなところで死ねるのならばこの人生でも良かったのかもしれない、なんて思ってしまう。
(あぁ……意識が遠のく)
瞳を閉ざそうとした瞬間――何者かがこちらへ泳いできたのだ。
チャイナ服を着たずんぐりとした小さななにかがこちらへ駆けるように水中を泳ぎ、少年を奪還する。
力強く陸に乗り上げたかと思えば、少年はその姿に唖然としてしまった。
茶色の小さな姿にチャイナ服を着た……モグラであった。
陸に上がったモグラはぷるぷると水しぶきを上げて「間に合ってよかったよ」言葉を発し、少年の拘束具を取り外していく。
少年はなにがなんだかわからずに「あなたは……何者?」なんて問いかければモグラはにたりと微笑んで、くるりと宙返りをした。
宙返りをしたかと思えば、次の瞬間には男の姿になっていた。
こげ茶色の長い髪に爽やかな顔立ちで甘いマスク、だが端正で悪戯に微笑む姿は悪戯青年かのようなお茶目さを感じさせる。そして極めつきは青と黒の模様をしたチャイナ服であった。
「あなたは……いったい?」
「それよりお前、名前は?」
少年は首を傾げた。
「名前ってなんですか? 俺は海の供物としか呼ばれていません」
「ふ~ん、名無しの権兵衛君か。……名無しくんじゃつまんないな~」
すると満月に映る月を見て――モグラは閃いた。
「そうだ海月だ。海に映る月で海月! 俺と暮らす時にはそう名乗っておきな」
少年はさらに首を傾げる。
「海月……って、俺はあなたと暮らすんですか?」
「そう。お前は俺と……土竜と暮らすんだ。海を統べるモグラとね」
モグラはそう言って手を差し伸べた。差し伸べられた手は温かく、その感覚は十五年経った今でも覚えている。
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