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4
一瞬の出来事だった。ルーカスが歌い終えた瞬間、幾筋もの稲妻と轟音が鉛色の空から降り注いだ。
あまりの眩しさに目を瞑ったレオ。しばらくして目を開けると、あたり一面真っ黒に焦げ、その上にスピカ兵たち全員が無惨に転がっていた。
そして、もう一人。
「マ、マリア……?」
さっきまで隣に立って居たはずのマリアが、ぷすぷすと煙を上げながら地に伏している。
焼けただれたその身体をゆっくりと抱き上げると、ぬるりとした手の感触と、血の匂いが鼻をついた。
「マリア? マリア! マリア!!」
レオは必死に彼女の名前を呼び続けた。だけど、何度呼んでも返事がない。呼んで、無視されて、呼んで、無視されて、呼んで……その声にはだんだんと涙の色が混じっていく。
フッ、と堪え切れず漏れたような笑い声が聞こえた。
「ルーカス!!」
「なんだい、レオ」
「なんで彼女まで攻撃した!?」
「おや、彼女は軍人じゃなかったのかい? これは大変気の毒なことをした」
嘘だ。ルーカスは、こうすることでレオが一番苦しむと知っていたに違いない。レオを苦しめるためだけにマリアを攻撃したのだ。
形容し難いほどに惨たらしい憤怒の情が湧き上がる。だけどレオがどれだけ怒ったところで、レオの魔力ではルーカスに傷一つ付けられないだろう。
こんなにも許せないのに、こんなにも苦しいのに……行き場のない激情に苛まれながら、奥歯をギリギリと食いしばることしかできない。
なんで……なんで僕は、こんなにも無力なんだ。
「……歌、って……」
腕の中で今にも消えそうな声がした。レオはハッとして、その声に耳をすませた。
「レオ、くん……歌って……最、後に……もう一度……あなたの歌、を……聞きたい……」
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