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振り絞るような声に、ルーカスの存在など瞬く間に意識の外に吹き飛んだ。
「歌? 歌だね? 分かった、分かったよ。歌うよマリア。聴いてくれ」
慌てて相槌を打ち、涙で震える喉からふぅっと息を吐く。
マリアに贈る最後の歌だ。何だ。何を歌うべきだろう。歌魔法には自然現象を歌ったものしかないから、今は相応しくないと思った。
……愛の歌を。これから死にゆく大切な人へ贈る、愛を込めた即興曲を。陳腐でもいいから。
レオは頭の中に浮かんできたマリアへの想いを、そのまま歌詞にして歌うことにした。
「マリアよ この世で一番愛する君に 歌を贈るよ
マリアよ 君に初めて会ったあの日 僕の心は救われたんだ
マリアよ 音痴な僕を 役立たずの僕を 頼ってくれてありがとう 信じてくれてありがとう」
静まり返った戦場に下手くそな歌声だけが響き渡る。
途中、まだそこに居たらしいルーカスの馬鹿にしたような笑い声が響く時もあったが、何を思ったのか、いつのまにか彼もレオの歌に聴き入っているようだった。
「マリアよ どうか最後にもう一度 君の笑顔を見せてくれ
マリアよ 君の魂の行先が 幸福な場所でありますように
ルーラララ ルーラララ……」
歌が終わると、再び水を打ったような静寂があたりを包んだ。
少し間をおいて、レオの腕の中、もう動くはずのないマリアがもぞもぞと身じろぎをした。
「……んー。あれ? ここは天国?」
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