フィデリス

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フィデリス

聞いてはいけない会話を聞いてしまった。 宰相達を殺すと言ったか。 ラオーネは王国を壊そうと考えているのか? 王国に来たのもその為か? 闇ギルドの(おさ)である事すら、ソフィに隠して。 いったい、何を考えているのか。  ラオーネが考えている事が理解出来なくて、ソフィは宿には帰らず、あてもなく歩いていた。 異様さを(まと)うかと思えば、無邪気で子供みたいな顔を持つラオーネ。 ソフィに嫌がる事は決してせず、ニコニコといつも笑っていた。  ラオーネが手を差し伸べたから、今のソフィはいる。 何か、理由があるのだろうか。 大それた事をやるようには、見えなかった。 いや、わからない。 ソフィはラオーネの事を、ほとんど知らないのだから。  ラオーネの考えている事がわからなくて、共にいるべきなのかと迷った。  ソフィは辿り着いた末に、別の宿に泊まった。 倒れるように眠りこけた。 ソフィは昔の夢を見た。  それは社交界でソフィが少年、フィデリスと出会ってからしばらくの事だった。  ソフィは市民と貴族が住む居住区の、間のような所に住んでいた。 貧乏貴族で曖昧な立ち位置の通りに。 家も一般庶民にしてはやや豪華。 しかし貴族から見たら、屋敷と言えるか怪しい家で暮らしていた。 従者と呼べる者も数人しかおらず、身の回りの事は自分でやってきた。 ソフィは食事の後片付けで部屋に一人だった。両親はリビングにいる。  その日は強い雨が降る、嵐の夜だった。 外が騒がしくて、ソフィは窓を開けていた。  「凄い雨…。」  目を向けたソフィが見たのは、王宮の騎士達だった。  「奴を探せ!!」  「奴はエルヴィラが死ぬのを見ている! 必ず逃がすな…!」 人を探しているようだった。  ぼんやりと眺めていた時、背後から大きな音が響き、ソフィはビクッと震えていた。    「な、なに…!?」  振り返った先にいたのは一人の少年。 誰かが鍵をかけ忘れていたらしく、そこから入ってきたようだ。 金髪なのはわかるが、大雨で全身が濡れていたから最初、誰だかわからなかった。  「…だれ?」   一歩、また一歩と歩み寄ってくる少年に、ソフィが(ひる)んだ時だった。  少年の顔が見覚えがあるものだと気づき、ソフィは目を(またた)かせていた。  「あなた、もしかしてフィデリス…?」
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