フィデリス

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 やはりそうだった。 緑の瞳は濁り、覇気がない。 服も雨と泥で汚れていた。 体も冷えているのか、震えていた。  「フィデリス、どうしたの…?どうしてこんな所に」  「…お願い。今だけ、(かくま)ってくれる…?」  「(かくま)う…?どういう事…?」  フィデリスが(つぶや)き、ソフィが狼狽(うろた)えた。 その時、外から足音が響いてくる。 フィデリスは怯えたように部屋の物影に隠れた。  次の瞬間、開いた扉から入ってくるのは騎士達。  「ちょっと、勝手に…!何の騒ぎです? 唐突(とうとつ)に入ってくるなんて、無礼ではありませんか?」  ソフィは毅然(きぜん)と騎士達を睨むが、彼らの態度は落ち着いていた。 貧乏男爵家だから、舐めているのだろうか。 騎士は主に、生まれが良い貴族の子息で構成されているから。  「人を探している。金髪に緑の瞳の少年だ。それこそ君と同じくらいの。 この付近で見かけなかったか?」  「…見ていないわ。」 状況は読めなかった。 だが、騎士達にフィデリスを渡したら、どんな目に遭うのか。 騎士は辺りを見回した。  「床が濡れた後がある。誰か、来たようだが?」    「あなた達が騒がしいから、何の騒ぎかと私が外に出て確認していただけ。 …それより、早く出ていって貰える? 迷惑よ。」  「外に出た?君の体は濡れていないのにか?…どうやら、ここに少年は来たらしいな。 奴を庇うのか?奴は(けが)れた血を引く、薄汚い身分の者だぞ。」  話の意味はわからなかったが、『来た』とバレた以上は、逆に隠す方が『ここにいる。』と言ってるようなものだ。  「ええ、実を言えば、確かにここに来たわ。彼が可哀想だと思って、隠していたけれど。」  「奴はどこにいる?これ以上隠せば、今度は君の家が危なくなるが?」 小娘だと足元を見られたものだ。 しかし嘘をつく時は、事実も入れたら誤魔化せる。 今、騎士達はソフィに対して、疑心暗鬼になっている。 嘘から出た真実を、どこまで真実かまでは認識出来ない。  「家の事を言われたら、本当の事を言うしかなくなるわ。 彼はあなた達が来ると見て、すぐにここから出ていったわ。 …確か、スラムの方に逃げると言っていた気がするけれど。」  「情報提供に感謝する。」  騎士達はろくにソフィを見ずに、早々に外に出ていった。 しばらくして、ソフィは物影に目を向けていた。  「もう大丈夫よ。」 静かに出てくるフィデリス。 虚ろな瞳が、力なくソフィを見つめていた。
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