フィデリス

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 「…ありがとう。」  「気にしないで。また来たら、適当に誤魔化しておくから。」  「ソフィ…本当に、ありがとう。」 肩を震わせるフィデリスは、涙目だった。 ソフィは顔を覗き込み、濡れた頬に触れる。 フィデリスの肩が一度だけ小さく震えた。    「もう行って。スラムは危ないから、このまま市民区を通って郊外に行った方が良いわ。」  フィデリスは(うなず)き、ソフィをまっすぐに見た。 猫のような瞳が、ソフィを(とら)えていた。  「…この恩は必ず返す。キミが困っていた時、今度はオレが助けてあげるから。」 ソフィは呆れたように笑みを(こぼ)していた。  「あなたは、私の事より自分の心配をして?」  その後、すぐに家から出て行き、それきり行方知れずとなったフィデリス。  ソフィもその後に両親が亡くなって、すぐに王国から離れたから、どうなったのかわからなかった。  フィデリス。髪色や(まと)う雰囲気も違うが、夢ではっきりと見て思い出した顔立ちは、ラオーネのものと全く同じものだった。  宿で目を覚ましたソフィ。  「フィデリスは…ラオーネだった…?」  ラオーネとフィデリスでは髪色も雰囲気もまるで変わっていたから、最初気づかなかった。 だが同じだ。双子とかではない。 フィデリスとラオーネは同一人物だった。 ソフィは、起き上がっていた。 逃げてる場合じゃない。 何があったのか、直接ラオーネに聞く必要がある。  ラオーネという人物を判断するにも、過去を知るのが一番だと思った。  ソフィがラオーネがいる宿屋の部屋に戻る。 鍵すらかけず、ラオーネは肩を落としていた。 一人、寂しげに食事をしていた。 顔に元気がなく、濡れた犬猫のような元気のなさだった。    「ラオーネ。」 ソフィが名前を呼んだ瞬間、目を向けたラオーネが目を見開き、瞳を輝かせる。 即座に駆け寄ってくる。  「ソフィ…!!本物…!?本人、なんだよね…?」  「私は本物だし本人よ。」  「良かった…なにか、あったんじゃないかって…。」
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