猫?わんこ?な男

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 「…フィ、ソフィ!聞こえないの?早く皿を下げなさい!!」  「…っ、申し訳ありません…!」  「相変わらず遅いし使えないわね。」  夕食時、ソフィが屋敷内で給仕係として働いていた時、不意にラオーネの事がよぎった。  あの後、どこかに行ったのか、ソフィが外に出た時、ラオーネは姿を消していた。 本当に猫のような男だと思った。 騒がしかったが、いざ居なくなると静かに感じた。  そのまま片付けまでやらされ、皿洗いが終わり、ようやく小屋に戻れる。  外に目を向けると、遠くから雷の音が聞こえてくる。これから大きな雨でも降るかもしれない。 ソフィが薄暗い屋敷内を歩いていた時だった。 疲れ切っていたソフィは、ある人物と衝突(しょうとつ)していた。  「も、申し訳ありません…!!」  最悪と言うべきか、その人物は町長パトリックの夫人、ナタリアだった。 ナタリアは他の使用人達からも恐れられている。 ナタリアは、まるでゴミでも見るような眼差(まなざ)しを、ソフィに向けた。  「主である私をわきまえずに歩くなんて、良い度胸をしてるわね。」 ナタリアに髪を(つか)まれ、ソフィはうめく。  「奥様、お許しくださ…ッ」  「鬱陶しいわね。」 勢い良く突き飛ばされる。  「つ、ぅ…ッ」 暗闇(くらやみ)の中、ナタリアは酷く冷めた顔でソフィを見下ろしていた。  「礼儀知らずで身の程知らずね。 次、同じ事をしたら、ただで済まないと思いなさい。」 ナタリアがいなくなっていた。  雨の音と共に、一人残されたソフィは、体を掻き抱く。 自分なりに、頑張ってきたつもりだった。 だが、どれだけ頑張っても、この家の人達は認めてくれない。 家族で幸せに暮らしていた頃に戻りたい。 男爵と言えど貧乏貴族で、庶民に毛が生えた程度で、その頃が一番楽しかった。 今はただ、辛い。 こんな思いを、一生しないといけないのか。 その時、雷の音が響く。 近くで落ちたのか雷が落ちた瞬間、光が(またた)いた。 気づくと人影があった。  窓に目を向け、腰かけていた人物を見た瞬間、ソフィは声にならない声を()らしていた。  「どうして、あなたが…」  ラオーネが窓から軽やかに降りる。 目線を合わせるように座り込み、ソフィの顔を覗き込んでいた。  「どうしてかな、なんでか気になっちゃったんだ。キミの事が。 確認する為に来たけど、やっぱり『そう』だった。…今になって、思い出すなんてね。」
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