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初恋の少年
その日、夢で見たのはソフィが男爵家令嬢だった頃の夢だった。
かつて幼い頃に、一度だけ呼ばれた社交界。
周りにいる者達は全員が貴族で、誰も彼もが自分より輝いて見えた。
気後れして、離れたところでソフィは眺めていた。
近くで同様に、壁に背を預けるようにいた少年。
退屈そうに見ていた少年と、目が合ったのがきっかけだった。
「あれ、キミはあの中に交じらないの?」
「あなたこそ。」
ソフィとそれほど変わらない年頃に見えた少年。
当時の記憶はあやふやになりつつあるので、少年の顔は覚えていないが、綺麗な金髪と緑の瞳だった事だけは覚えていた。
「オレは良いんだよ。嫌われ者だから。
媚売ってくる奴もいない。」
身なりはこの場にいる誰よりも綺麗だったのに、フランクで砕けた口調だった。
「嫌われ者?どうして?」
「あれ、キミは知らない?知らないなら、その方が良いかもね。
…母さんに出ろと言われた以上は、時間を潰さないとだし。キミ、少しオレと話そうよ。」
「…良いけれど、あなた、名前は?
私はソフィ・フロースよ。」
「オレはフィデリス。」
「フィデリス、ね、」
ソフィはフィデリスという少年と、短いが言葉を交わした。
「ソフィは市民区と貴族街の間に住んでるの?珍しいね。」
「私は貧乏貴族だから、普通の庶民に毛が生えた程度よ。
この場に呼ばれたのが不思議なくらい。
友達だって、貴族じゃない子の方が多いんだから。」
「へえ、それは楽しそう。」
「馬鹿にしてる?」
「まさか。オレだって、似たようなモノだから。」
「似てる…?あなたと私が…?ふーん。」
フィデリスは不思議だった。
飄々としていてフランクで、今まで接してきたどの貴族の少年とも違う。
貧乏貴族のソフィにとって、話しやすかった。それは、フィデリスも同じに見えた。
「幼馴染みってこんな感じかな。それとも兄妹?オレ、兄はたくさんいるけど、妹は居ないから。ソフィは妹みたいで話しやすい。」
「お兄様がたくさんいるの?」
「そう。俺はその六番目。すぐ上の兄とは一個違いで、五番目の兄様は、からかうと面白いし、話しやすいけどね。」
「私は一人っ子だからあなたが羨ましいわ。」
「兄弟って言っても、ほとんど他人みたいなものだよ。」
フィデリスは遠い目を向けながら呟いた。
「…そうなの?」
「まあ、一個上のオレオール兄サマは別として。…境遇が似ていて、居場所がない者同士、唯一仲は良い方。」
「ふーん…複雑なのね。」
「そう。フクザツで嫌になっちゃうんだよ~。…って、キミに話す事でもなかったか。」
花のような笑顔を溢すフィデリス。
不思議な魅力がフィデリスにはあった。
だからたった一回、社交界で会っただけの少年だが、フィデリスはソフィの初恋になっていた。
「ソフィ。ねー、ソフィったら~?聞いてる~?」
頬杖をついて、顔を覗き込んでくるラオーネ。
こちらをからかうような猫のような瞳と会った瞬間、ソフィは勢い良くのけぞっていた。
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