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猫?わんこ?な男
揺れる馬車。
今まで住んでいた町がどんどん離れていく。
「本当に、勝手に出ていって、大丈夫だったのかしら…?」
「ソフィは今まで、酷い目に遭ってきたんだから、良いんだよ。」
猫のような眼差しが、穏やかにソフィを捉えた。
「ソフィ、これからは自分の為に、生きて良いんだよ?」
「…そうなのかしら?」
「うん、そうだよ。少なくともオレはソフィの為なら、何でもしてあげる。」
蕩けるような笑顔でラオーネは言った。
「何でもって…私だってそこまで要求しないわよ?」
「え~?ソフィは無欲だなぁ~。」
だが、ラオーネのおかげだった。
ラオーネがいたから、今までいたあの場所から、ソフィは脱出出来たのだから。
一日前。
「…大丈夫ですか?」
ソフィが青年を見つけたのは、使いっぱしりの買い物の帰りだった。
路地で倒れていた橙色の長髪の青年。
死体かとも思ったが、動いていた。
近づいて見てみると重症だった。
ソフィは聖術で青年の怪我を治療した。
捨て置くのも寝覚めが悪い。それだけだ。
治癒の力を持ってしても、完全に回復したとは言えなかった。それだけ重症だったから。
放置しておくわけにもいかない。
悩んだソフィは、青年を担いで運んだ。運ぶのに身体強化の聖術を使った。
「…なんで私がこんな事をしてるの…?」
ソフィはお人好しだった。
ソフィはかつて男爵令嬢だったが、両親の死と共に爵位を返上。
住んでいた王国を離れ、ある町で町長をしている親戚一家に引き取られた。
そこでは使用人同然に毎日こき使われていた。
ソフィが与えられているのは一家の屋敷の隣にある古い小屋。元々は家畜小屋として使われていた。
ソフィは青年を藁の上に寝かせる。
品がある整った顔立ちだが、旅人なのか、身なりが良いとは言えない。
なぜ、重症だったのか。厄介な身の上の者を助けたんじゃないかと思い始める。
しばらくして青年は目を覚ましていた。
「家畜小屋…?なんでオレがここに…?」
のんびりとした口調で呟く。
猫を思わせる眼差し、緑の瞳。
不敵な表情と妖しげな雰囲気。
年齢はソフィと変わらない十代後半程度か。
「あなた、路地の隅っこで、重症で倒れていたの。」
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