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「ピィー、ピピピピ」
その鳴き声に、自分の部屋で本を読んでいたアンは、反射的に本を置いて椅子から立ち上がり、窓の外を見た。
「マーティン!?」
情愛と悲痛さを込めて口にしたその名前の主は、2階の窓からの眺めのどこにも見当たらなかった。下の庭はまだ半ば雪で覆われていたが、春の訪れも近く、草の芽がけなげに顔を覗かせていた。
その草の芽を目当てに迷い込んだのだろうか、よく見ると鳴き声のするあたりに、小鳥が一羽、餌をついばむように雪のカーペットをくちばしでつついていた。
小刻みに体を動かすその鳥は、背中と羽根が褐色だが、お腹の部分は雪と見分けがつかない白色だった。
生まれた時のまま汚れを知らないようなその白さは、雪で作った形に生命が吹き込まれたとも思えた。
そんな、雪と相思相愛の鳥、それはスノーバードだった。
そして、スノーバードの名前をアンに教えたのは、マーティンだった。
「この地に雪が降る頃やってきて、ここで冬を過ごして、春になると北の方に渡っていくんだ」
「こんな小さい鳥が渡り?」
何千キロも海や山を越えて飛び続ける渡り鳥は強靭なイメージで、スズメより少し大きいくらいのスノーバードは渡り鳥に似つかわしくなかった。
スズメのように同じ所にとどまっていれば安心なのに、なぜ渡りという冒険の旅にわざわざ出るのだろう。
「おおまかに言えば、繁殖と餌のためだ。スノーバードは小鳥だけど、一羽で飛ぶわけじゃない。何百羽、何千羽と群れになって渡るから、そんなに危険じゃないんだよ」
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