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私の家のお向かいには、真島さんという50代のご夫婦が住んでいる。
真島さんの奥様は自然がとても大好きで、植物で家を飾ったり、リースを作ったりする――所謂、自然を使用したハンドクラフトを趣味にしていた。
だが、そんな奥様には1つ悪癖があったのだ。
普段はとても普通の方なのだが、珍しい植物を見かけると、なんと、
「いいわね。これ頂戴」
と言って、家人や管理者から許可を貰うや、常に持参している鋏で、チョキンと花や草、枝などを容赦無く切り落としてしまうのである。
まさか切り落とすなんて思っていなかった家人達は当然激怒するが、奥様はどこ吹く風で、様々な家に「これ頂戴!」を繰り返しては、切り落とした花や草木で作品の製作を続けていた。
酷い悪癖は、近所はおろか、ほぼ町中の人に知れ渡っており、多くの人に嫌われていた奥様。
そんなある日、彼女は散歩の途中で通りかかった家で、珍しい花を見つける。
しかし、家人は留守だった。
すると、何を思ったのか――なんと奥様は許可を取らずに、花を切り落とし、持って帰ってきてしまったのである。
その夜のことだ。
大きな救急車の音に飛び起きる私。
見ると、真島さんの家の前に救急車が停まっている。
タンカーに乗せられ、運ばれていくのは血まみれになった奥様だ。
気になって、私が真島さんのご主人に聞いてみると、
「妻が、急にパニックを起こして……いきなり、痛い痛いと叫び始めたんです」
と、いうことらしい。
後日――奥様の退院後、夜に騒がせてしまったお詫びに我が家を訪れる真島さん夫妻。
奥様の姿は全身が包帯に覆われ、まるでミイラの様だった。
「眠っている時ですら、知らないうちに傷が増えていくんです」
そう語りながら、うちの庭を品定めをする様に見つめる奥様。
と、新しく植えた花に気づいたのか、彼女はバッグから鋏を取り出すや、
「いいわね、これ頂戴!」
と、言ってきた。
瞬間、奥様の顔を覆う包帯に新しく鮮血が滲み出す。
悲鳴をあげる奥様。
それでも、今でも彼女の「これ頂戴」は直っていない。
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