軍靴と藤

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 私の祖父は、第二次世界にも参戦した元軍人だ。  祖父が戦った地は、激戦地として今尚有名な異国だった。  終戦後、異国の地に置き去りでは可哀想だと、同じ部隊の仲間達の遺骨を携え、帰国した祖父。  祖父は、庭の隅に遺骨を埋めると、せめてもの手向けにそこに藤の苗木を植えた。  年月をかけ、立派な藤棚となる程に伸び、成長した庭の藤。  年老いた祖父は、私の母を含む5人の子供達に、『何があっても庭の藤だけは切るな』と言い遺して亡くなった。  が、庭を潰して駐車場にしたかった長男は、下の弟妹達から詐欺同然の方法で同意を得るや、祖父の四十九日すら待たず、業者に頼んで藤を切り倒そうとする。  が、その日から会う度に……日に日にやつれていく様になった長男。  四十九日の法要に会った際には、彼はげっそりと痩せこけ、しきりに周囲を気にしていた。 「ブーツが、ブーツの足音や、銃撃の音が止まないんだ」  頭を抱えながら、そう呟く長男。  目の下に隈を作った長男の奥様曰く、 「家に一人でいる時でも、沢山の人の……まるで軍隊の様な規則正しい足音が聞こえてくる」  らしい。 「それもこれも全て、この藤のせいに違いない」  そう言うや、長男は庭に出ると、藤の幹を強く殴りつけた。  瞬間、確かに辺りに響く、  パンッ!  という、乾いた銃声の様な音。  気付くと長男は、拳から血を流して庭に倒れ込んでいた。  後に医者に聞いたところによると、長男の拳には昔の銃で撃たれた様な傷があったらしい。
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