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「はぁ。まだわからんって顔やな? まあオメガやって自覚したのも最近やからなぁ。でもな、今のすぐるの状態を見る限り、もうすぐ初めての発情期がくるんちゃうかな? 微熱が続いてるんやないの? 俺もオメガやさかいな。発情前の様子はよくわかるねん。なんかあったらすぐに言うてな。相談にのるからな」 「まだ慣れなくて。本当に僕はオメガなんですね……」 「そんな暗い顔するなって。オメガだって人間や。ベータとアルファと同じ人間なんや。卑屈になる必要はない。逆にアルファを手玉に取ってやるぐらいの気持ちになったらええねん。すぐる……自分に正直に生きたら良いんやで? 」 「それってどういう?」 「今まですぐるは祖父(じい)さんに逆らったり反論したことがないんやないか?」 「なんでわかるの?」 「我慢が蓄積すると歪みが出てくる。気づかぬうちに心も身体も悲鳴を上げてたのかもしれへんで」 「…………そうなのかな」  それからしばらくしてから僕は微熱をだした。朝比奈の言う通りに発情期が来るのだろうか。体がだるい。ハジメに会うとドキドキが加速する。これはオメガの体質のせいなのかと考えると不安になる。  自然と僕はハジメと距離を取るようになってしまった。お互い顔を見ると安心はするがそれ以上は近寄らないし、二人とも意識しすぎてしまう。  ハジメはあれから僕に触れても来ない。日中は大学の課題やとりとめのない事を話し、ハジメは夜になると隣の部屋に行ってしまう。僕はまだこの部屋とトイレと風呂場しか移動ができない。以前のように外に出るのが怖くなってしまったのだ。それなのにハジメの匂いが恋しい。僕はどうなってしまうんだろう。怖い。変化するのが怖くてたまらない。同じオメガだったという母さんならこういう時にはどうしただろうか?  そんなある夜、僕は夢を見た。  夢の中で僕と似た青年がほほ笑みかけてくる。 「すぐる。久しぶり。大きくなったね」 「……母さん? 母さんなの?」 「ごめんね。すぐるに重荷を背負わせてしまって。父さんは本当はわかってたんだよ。僕がオメガだっていう事を。お前が出来た時も最初は戸惑ってはいたが、孫の顔を見て喜んでいたのも知っている。心の中ではオメガを受け入れてたのさ」 「じいちゃんが?」 「そうだよ。ただ、僕らの前では本音を言えなかったのだと思うよ」 「母さん。母さんごめん。僕が産まれて母さんが苦労したんじゃないかって。じいちゃんだって僕がオメガだとわかったら辛いんじゃないかって。そう思ったら僕……」 「すぐる。僕は君が産まれて来てくれて幸せだった。君は僕が愛した人との子供なんだよ。君のすべてが僕の生きる証だった。だからすぐるも自分に正直に好きに生きて欲しい」 「母さん……僕はオメガでもいいの?」 「当たり前じゃないか。すぐるがオメガになったのは僕の子供だからかな? ごめんね。悲しませて。でも前を向いて歩いて行って欲しい。君の未来は君だけのものだ。君の幸せが僕の幸せだよ」 「母さん。母さん……」 「愛してるよ。僕の可愛いすぐる。幸せになってね」 「母さん……ありがとう。僕も母さんに負けないぐらい人を好きになってみるよ」  母さん。僕を産んでくれてありがとう。
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