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8-1 父親
大学の校門を出た辺りから後を付けられてる気配がする。後ろを振り向きたいが我慢をして人気のない路地まで進んだ。
「どこまで行く気だ?」
ふいに声をかけられる。気づかれたか? 足を止めて思い切って振り返った。
「僕に御用がおありですか?」
やはり立花だった。ここ数日僕の前に姿を現さなかったので、今日はハジメや朝比奈には距離をとってもらっていた。
「……そんな恰好をして何を考えているんだ?」
「そんな恰好というと?」
「だから。なんで母親に似た格好をしているんだ!」
「やっぱり、母の事をご存じだったのですね」
「……うるさい。俺が聞いてるのは何をしようとしているかだ」
「貴方にあいたかったんですよ」
「はっ。だから? こんなところに俺を誘い込んだのか? あんたオメガだろ? 得体の知れぬ男と二人きりって何をされてるかわらかないんだぜ」
立花が凄む。ビリっとした空気が流れる。やはりこの人はアルファだったのか
「そこまでだ!」
ハジメの声が響く。頭上にはドローンが3台ほど浮かんでいた。遠隔操作で朝比奈がずっと僕らを追い続けてくれたのだ。こういう時に日頃からDXに堪能している朝比奈の技術が役に立つ。僕もこれから習いたいと思っている。
「くそ。自分を囮にしたのか。危ないことしやがって」
立花が憎々しそうに言い放つ。ハジメが立花を拘束する。
「あんたにはちょっとついてきて欲しいところがあるんや」
「警察にでもつきだす気か?」
「いや、なんも悪いことしてないのに警察はないやろ?」
「何を言ってる俺はそいつを脅そうとしてたんだぞ」
「違うでしょ。あの名刺は偽造だったじゃないですか。本当は僕を脅そうとしたんじゃなくて助けようとしたんじゃないですか?」
「…………」
「あんた、不器用な生き方してるな」
ハジメが哀れそうに言う。どういう意味だろうか?
◇◆◇
ハジメの車で待っていた朝比奈と同行して僕らは南港のふ頭にある大型コンテナの中にはいる。テレビでみたことはあるが実際に目で見たのは初めてで、長方形な堅牢な箱って感じだ。
「これはうちのコンテナや。普段は親父がデザインした衣装などを海外に運ぶ時に使ってる。だがたまにシークレット会合(密談)にも使ってるから椅子と机が常備してあるんや」
丸テーブルが3つとパイプ椅子が並んでいる。
「おお、なんかスパイ映画みたいだね」
「ははは。感想がすぐるらしいな」
「さて、連れてきたのは他でもない。あんたが何者かをしりたいんや」
「知ってどうするんだ?」
立花が吐き捨てるように言う。
「謎解きをしたいんだよ」
低音がコンテナの中に響いた。高塚がやってきたのだ。
「椅子は人数分あるのか?」
「用意した。ついでに軽食もな。珈琲と紅茶とどっちがいいかな?」
ハジメ父は相変わらずである。草壁が机の上にカップを置いていく。
立花がピリッとした。草壁は無言のままだ。さきほどのドローンにはカメラが搭載してあり、その映像は朝比奈と高塚の元へと送られていた。彼らはそれを確認したのだろう。
僕とハジメ。高塚と朝比奈とハジメ父。そして草壁と立花が同じテーブルに椅子をつけた。
全員が椅子にすわったところで草壁が話し出した。
「お久しぶりですね」
「…………」
「あれから20年以上たちますかね」
「…………ずいぶんと良い面構えになったな」
「そうでしょうか? 年取ったって感じじゃないですか?」
「それは俺だ」
「ええ。そうですね。貴方は少しくたびれた感じがします」
「誰のせいだと! ……」
「その話を聞かせてもらえませんか?」
「…………嫌だと言ったら?」
「出来れば母の事を教えてもらいたいです。立花さんは母の事をご存じなのですね? 僕には事実を知る権利があると思うんです」
「……ふっ。話し方がそっくりだな」
「ええ。そうなんですよ」
立花と草壁が僕を懐かしそうに見る。
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