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2-3
「はんっ。産まれも育ちもアルファな御曹司のハジメにゃはわからんよ。」
「どこがや。お前だって似たようなもんやないか」
「一緒にすんな。俺はぼんぼんやないで。俺は次男やし、自分の事は自分で生計立てなあかんと思ってんねん。デジタルを使って生活を向上させ世の中のためになることをするんや」
「ふん。偽善者ぶんなよ」
「何言うてんねん。偽善者やない。俺は夢を売るんや。普通に開業するには資金がいる。でもバーチャルなら土地代も賃貸もかからん。俺は夢をもつ人たちの手助けをしていきたいんや」
「確かにそうですね。お店を持つなら人も場所も必要ですがネットの世界なら費用が少なくて済むかも……」
「そや! 俺のこの熱い想いをわかってくれるんか? あんたええ子やな。すぐる君やったっけ? こんな冷徹仮面のハジメなんかやめて俺と友達になれへんか?」
「冷徹仮面? ハジメがですか?」
「そうや。ハジメは自分が気に入らん相手にはまったく関わらないし、興味もない。傍におっても知らんぷりなんやで」
この時僕はハジメが僕以外の人間にはクールだという事を初めて知ったのだ。
「やめとけ。それ以上すぐるを困らせるな」
ハジメが僕の手をひき抱き寄せた。どうしたんだろ。ドキドキがとまらない。
「ハジメ。お前まさか。その子が本命なんか?」
「うるさいわっ。お前に関係ないやろ」
ハジメの僕を抱き寄せる手に力がこもる。これはどういう状況なのだろうか?
「おやおや。恥ずかしがってるんじゃないの?」
「ほっとけ。人の恋路をじゃまするやつは馬に蹴られてなんとやらって言うやろ!」
「へ~。ついに運命のオメガが現れたんか?」
朝比奈が僕を見てニヤけてくる。女神のような微笑だけど。
「あの。僕はベータですよ」
(ひょっとして僕がオメガと間違われているのか?)
「……すぐる……お前……何言うてんねん」
ハジメが慌てだす。どうしたんだろうか。
「え? 僕はベータだよ。どこから見ても平凡で普通でしょ?」
「……なんともまあ……ぷっはははは! こりゃおもろいな!」
「朝比奈。それ以上言うとボコボコにすんぞ……」
「おっと。それはやめてんか。俺の綺麗な顔に傷がつく。顔も客寄せの武器やさかいな」
(凄いな、この人。根っからの商売人気質なんだ)
「それはさておき。……すぐる君。さっきの藍染作品。そろそろ乾いてると思うからそっちの乾燥室から取っておいでよ。色見の確認しよか。補助で手伝う気があるなら作業工程も最後まで覚えなあかんしな」
「そうですね。僕も出来上がった作品が見てみたいです。取ってきます」
僕はハジメの腕から逃れる様にその場を離れた。今の会話の続きが気になるが、ハジメの足を引っ張らない様にきちんと手伝えるようになりたかったのだ。
「……おい。ハジメ。あの子から目を離すなよ」
「お前に言われんでもわかっとるわい。しかし自分のことをベータと思い込んでたとは」
「ああ。ちゃんとバース検査をし直した方がええで。無防備すぎる」
「わかっとる。長谷川に狙われてるんも気づいてなかった」
「はあ? ……後天性なんかな。身体の線も細いし発情期もまだみたいやで」
「なおさらやな。俺は最初に見た瞬間にわかったというのに……くそっ」
「へぇ。見た瞬間ねぇ。ほぅ~」
「ぐっ。今のは聞かんかったことにしてくれや」
「しゃあないな。幼馴染のよしみや。でもなぁタダではなぁ……」
「ちっ。わかったわ。親父の常連客のうち誰かひとり紹介したる!」
「よっしゃ! 君らのキューピットになったるで~」
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