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8-2
はあっと一息ついて立花が口を開いた。
「俺は成り立ての刑事だった。梓くんと出会ったのは図書館だ。ある事件の過去の調査に立ち寄った時に出会った。過去の文献が沢山寄贈されてる大きな図書館があって、彼は学生の時からそこに通い詰めていたらしくてどこに何があるか係の者よりも正確に答えれたんや」
「彼は本当に知識が豊富だった。そうかそんなに通ってたのか」
「あんたともそこで知り合ったんだろ?」
「ええ。そうでした。僕のことは知ってたんですか?」
「ああ。何度か一緒に居るのを見かけたからな」
「あの図書館はこの辺りじゃ一番古くて大きいですからね」
「だが、あそこは古文書や大阪関連の文献、ビジネス関係分野の書籍・資料に特化している。デザイン関連なら他でもよかったんじゃないのか?」
「過去の資料で欲しいのがあったので……」
「あんたは根本的なところは何もかわってないんだな」
「僕は自分が変わったとは思ってませんが?」
「そういうところが嫌いなんだよ」
「別に貴方に好かれようとは思ってません」
「あんた、資料は欲しかったのは最初だけで、あとは梓がいるからあの図書館に通ってたんだろ? だったらそう言えばいいじゃねえか」
「それは……」
「そういう自信なさげな顔が嫌いなんだよ」
「ほっといてください」
「あの時もそうだ。あんたは全部持っていたのに。才能も恋も全部手にいれてたのに。諦めていたんだよ。自分はベータだからって。だから海外へ進出する話が出た時も所詮自分はベータだからと他のアルファにはかなわないと辞退しかけてたんじゃないのか。あの子が……梓が自分がいるせいであんたが一歩を踏み出せないと思い詰めてたのに!」
「そんな……僕のせいだったのか?」
「あの子の腹の中にはすでにあんたの子がいたんだよ! 知ってたんだろ?オメガは男でも子供が産めるって。まさかアルファとじゃないと子供ができないと思ってたんじゃねえだろな。梓はな、それすら言い出せないで思い悩んでたんだ。あの時、ああでもしなければあんたは海外へ行こうなんて思わなかっただろう? ここに居たって何もない。向こうに行って死ぬ気で何かに打ち込もうってな。あんた本当はそれを望んでいたんだよ」
「あ……僕は……先生に海外でアトリエを開くからついてくるかと誘われていて。でも有能な奴は皆アルファだった。僕がついて行っても実力に差がつくのは目に見えていた。梓がいるしここで暮らしてもいいかと……思っていたんだ」
「それだよ。あんたは梓を言い訳に使おうとしたんだ。夢をあきらめる言い訳にな。あの子は賢い子だったよ。あんたの事をよくわかっていた。梓はさ、俺の気持ちを知っていながら首を噛めって泣きながら言ってきたんだぜ。知ってるか? 番ってな、発情期で互いに抱き合って交わりながらでないとなれねえんだよ。好きな子の腹に子供がいるのに無茶して抱けるわけねえじゃねえか」
「知らなかった……じゃあ……じゃあ、本当にあの噛み跡は……」
「ああ。ただ単に噛んだだけだ。俺たちゃ番でもなんでもねえ。友人でもねえんだ。あんたがもっとあの時にベータだからって卑屈になってなければ……くそっ! バース性なんてくそくらえだ!」
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