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9-1 真相
「…………」
「…………」
草壁が茫然としている。その目からは涙がとめどなくあふれていた。
「なるほど。人に歴史ありだな」
「ああ。やはりそういうことか」
観客と化していたハジメ父と高塚が沈黙を破った。
「見せもんじゃねえんだよ!」
立花が怒鳴る。
「でも僕は知りたいことが知れました。……ありがとうございます。立花さんも言いづらかったと思います。草壁さんはご存じなかったのでしょう? ならば責任を感じることはないです」
「すぐる。大丈夫か?」
ハジメがそっと僕の手を握る。心なしか僕の手は震えていたようだ。
「うん。大丈夫。だって母さんは僕には悲しそうな顔を見せなかったんだよ。好きな人の子を産めて幸せだったって思うよ」
ううううと草壁のむせび泣く声が聞こえた。
「お前は本当に梓によく似ているよ」
立花が苦しそうな顔をする。
「じゃあ、僕らが聞きたいことを尋ねてもいいかね?」
高塚が足を組みなおして顎をあげた。
「君、今は探偵事務所を開いてるようだね? すぐるくんに近づいたのは本当は高塚の本家からの依頼がきっかけじゃないのかな?」
「…………ぐ」
「うちのお家騒動にすぐるくんを巻き込まない様に脅して離れさせようとしたんやないんか?。だいたい名刺はフェイクやったのに。名前だけは本名を名乗るなんて、草壁がこちらにおる事に気づいてて牽制したんやないのかい?」
「……そうだ。前情報としてあの日、高塚の分家が本気で乗っ取りを考えてるからそれを阻止するように動きだせと指示が来たんや」
「乗っ取りやなんて。なんでそんなことになってるんや」
「朝比奈じゅん。あんたが関連してる。あんたが本家の血筋だからだ。今まで分家は血筋やなくアルファという繋がりだけだったから周りも油断していた。だが、そこで本家の血筋と婚姻を結び、アルファの子ができるとなると。名目上、高塚亜紀良の子は本家の子と肩を並べる地位となる」
「やっぱそうなるんや。めんどくさいなあ」
軽口をたたいたのはハジメ父だった。
「こういうのがあるから僕はお家代々とかいう家系は嫌なんだよねえ」
「俺もそう思う。もう朝比奈の弟に家督を譲っちゃえばいいのに」
ハジメも同じようなことを言い出す。似た者親子というところか。
「だが、あいつはまだ小学生や。無理強いしたくない」
朝比奈は難しい顔をする。そりゃそうだよね。僕だって弟がまだ小さいのに家督を継げなんて言えないよ。
「そこは兄貴と相談中や。今回手を出してきたのは義姉さんのほうやろう」
高塚が眉間に皺を寄せる。マフィアの首領みたいな顔になっている。
「げっ……おばさんかいな。そりゃ大変やな」
ハジメが肩をすくめる。
「怖い方なの?」
「ああ。アルファの女性は気が強い人が多いねん」
という事は本家の奥さんはアルファなのだろう。
「ちなみに俺のおかんと姉貴もアルファや」
「ええ! そうだったんだ」
これは気を引き締めねばなるまい。ハジメ母は今回は事業が忙しくて会えなくて残念とメールだけはいただいている。お姉さんのほうは海外で妊娠中だそうで出産後帰国時に会う予定だ。
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