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9-2
「なんの因果か。こんなことになるなんてなあ。あれから俺は警察をやめた。人を守るためになった職だったが好きな人一人守ることも出来ない自分に嫌気がさしたからだ。だが結局できることは人探しや身辺調査で、仕方なく探偵事務所を開業してるってわけさ。警察関連の情報なら伝手があるしな」
立花がしみじみといった感じでうなだれる。
「ふむ。立花と言うたな。君、僕と組みたまえ」
あれ。この高塚の口調、この間僕に急にDNA鑑定をしろと言い出した時と一緒だ。横に居る朝比奈を見るとめっちゃ眉間に皺を寄せてる。これはまた悪い癖が出だしたとか思ってそうな顔だな。こういう人たちに囲まれているせいか最近人の顔を見るだけでなんとなく雰囲気がわかってきた。
「はあ? 急に何を言いだすんだ?」
「僕の子飼いにならへんか? 逆に本家の動向を教えてくれるとありがたい」
「二重スパイ? おお。危険な勤務だね。ひどい目にあわない? 大丈夫なの?」
「ぷは。ホンマにすぐるは言動が可愛いな」
ハジメが僕の頭をなでる。どうして?子供扱いされてるような気がする。
「すぐる君にはそのままでいて欲しい。うんうん。ええ子や。うちの子にしよう」
「だから俺の婚約者やって」
難波家の親子漫才は無視しておこう。
「報酬は二倍だす。たまにすぐる君にも会える。何難しいことやない。僕は時期が来れば相続放棄をするつもりや。だがじゅんや僕らの子供の事はずっと見張られることになるやろう。その時のために少しだけ早く情報が欲しいだけや。どうや。これも縁や。いやこうなる宿命やったんやないかな?」
「宿命って怖いことを言うな。……だが悪い話じゃないな」
「無理強いはせえへん。定期的に報告がもらえるなら報酬は保証するで。返事は?」
高塚の問いかけに立花は自分のよれよれのシャツをじっと見つめてわかったと返事をした。
「残りは草壁やな」
ハジメ父がテーブルに突っ伏している草壁に声をかけた。
「……僕はどうしたらいいんでしょうか?」
泣きすぎて真っ赤に腫れた眼をしたまま僕を見つめる。
「あの、僕は何も望んではいません。ずっと父親はいませんでしたし、それが当たり前だったので今更父親だと言われても僕自身どうしていいかわからないので。気にしないで下さい」
「いや、気にするやろ……げっ」
高塚がつっこっみを入れてきたがすぐに朝比奈に肘鉄をくらっていた。
「そうか。すぐる君の気持ちは分かったで。それで草壁はどうしたいんや」
ハジメ父が優しく問いかける。だが僕にはその声が優しすぎて怖かった。まるで草壁の次の一言を待ち構えているようだった。
「ぼ、僕は。僕に出来る事をしたい」
「じゃあ草壁は何ができるんや」
「それは…………見守ること……です」
「うん。よしよし。そうか。そうやな。今の草壁にできることはないな。それがわかっているだけでも合格としとこか。過ぎ去ったことを悔やみすぎても仕方がない。人は前を向いて生きていかなあかんからな。だからと言って忘れ去ってしまってもあかん。人は学ぶもんや。草壁は今は昔ほどベータ性に捕らわれてはいないやろ? だったらその生き方を示してみたらいいんやないかな。それをきっとすぐる君のお母さんは望んでいたんだろう」
「はい。……はい」
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