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番外編2-2
もう仲のいい姿を見たくないと思うのに、そういう時に限って図書館に行く用事ができる。今度はビジネス書関連だ。行きたくないという気持ちと会いたいという気持ちが入り混じる。
「立花さん?」
梓が俺を見つけて駆け寄ってくれた。顔がニヤケてしまう。
「お、おう。久しぶり!」
「元気そうでよかった」
「ああ。変わったことはないか?」
「ん……それが僕、お付き合い始めたんだ」
「そ……うか。よかったじゃねえか! なんかあったらすぐに俺に言いなよ。なんでも相談にのるぜ」
「はい! ありがとうございます。実は聞いてもらいたいことがあって」
「おう。なんだ言ってみな」
相手はデザイナーの卵らしい。へえ。ここにあるデザイン関連は最新のものじゃねえだろうし。よその美術館に行った方がいいんじゃねえか。なんて思いつつも梓の話に耳を傾けた。ときどき頬を染めてほほ笑む梓が可愛らしい。俺のことだったらいいのに。
会えばいつも通り俺に声をかけ、恋人の話しを聞かされた。だがまあ、梓が幸せならそれでもいいかと思い始めていた。そんなある日……
「妊娠した? え? あいつの子か?」
梓はオメガだった。そうか、俺はアルファだ。惹かれたのはそのせいもあったのだろうか?
「番になるのか?」
「彼はベータなんだ」
はあ? あいつベータだったのか! それも梓は自分が居れば足手まといになると思い悩んでいた。そんなやつ別れてしまえ。そう何度も言いそうになった。
そして最悪な出来事がおこった。
「お願いだ。うなじを噛んでくれ!」
泣きながら梓が叫ぶ。噛みたい。本当は抱きつぶしたい。だけど、なんで腹をかばってるんだよ。俺が無理やり抱いたら番になれるのか? だが腹の子は?
「……わかった。噛んでやるよ。でも抱かないよ」
「ごめん。ごめんなさい」
泣きながら謝る梓のうなじを俺は何度も噛んだ。俺を選んでくれと心で叫びながら。
「ぐぅ……うぅ……」
痛かっただろうに。歯を食いしばって梓は耐えていた。そのまますぐに奴の元へ二人して出向いた。腫れあがったうなじを見てあいつは唖然としていた。
ああ。こいつは番のことがわかっちゃいねえ。梓の方が一枚上手だったのか。噛みついた程度じゃ傷はすぐに癒えてしまう。だが、やつはベータだ。その違いさえもわからねえだろう。
それでも俺はどこかで俺を頼ってくれるじゃないかと期待していた。一緒に暮らしたら情が湧いて俺を好きになってくれるかもしれないかもとさえ思っていた。
「え? 居なくなった?」
突然梓は消えてしまった。俺への手紙だけを残して。図書館の受付で俺宛と言う手紙を受け取り。震える手で封筒を開く。そこには感謝の言葉と謝罪が書き連ねてあった。
「こんなものが欲しかったんじゃねえ!」
そうだ俺は梓自身が欲しかった。なのに何故、伝えなかったんだろう。
いやそうじゃねえ。答えが分かっていたからだ。俺を選ばないという答えが。
◇◆◇
久しぶりに図書館に来てみた。
「すっかり忘れたと思っていたのになあ。高塚の言う通り宿命っていうやつなのか?」
梓がいつも座っていた窓辺の席に腰かけて見る。
――――立花さん。ありがとう――――
どこかで梓の声が聞こえたような気がした。振り返ってみても当然ながらそこには彼の姿はない。
「……まいったな」
こんなにも自分は捕らわれていたのか。
「俺も草壁の事を笑えねえな」
自分に自信がなかったのは俺の方だったのかもしれない。
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3章完結しました。お読みいただきありがとうございます。
3章完結スター特典アップ「 もしもすぐるがうさぎ獣人だったら」
Hシーンありの2スターです。
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