番外編:3-➀スター1000記念。星に願いを。

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番外編:3-➀スター1000記念。星に願いを。

 チョキチョキ。すぐるがリビングの端っこで色とりどりの色紙を縦長に切っていく。 「すぐる何してんの?」  不思議に思い声をかけてみた。 「ごめん。仕事の邪魔しちゃった?」 「いや、ちようど休憩しようと思ってたとこやよ」  俺は今次の布作りの考察中だった。いろんな素材を糸に変え、そこから布を作り上げていく。すぐるにはハジメの手は魔法の手だねと言われた。相変わらず可愛いらしい事を言ってくる。 「休憩なら一緒にお茶でも飲む?」 「そうやな。緑茶でもいれてくれるか?」 「うん。いいよ」    海外の拠点となる部屋は親父から借りた。親子と言えど貸し借りは嫌だった。だが最近は親父からのオーダーで布を作ることも増え、駄賃がわりで部屋代はナシとなった。その代わり気が済むまでやり直させられる。 「ったく、一切妥協しないんやで。締切三日前に急に色の変更とか言うてくるんやからホンマに困るわ」 「ふふ。そこがいいんでしょ。ハジメだって手を抜きたくないんでしょ?」 「まぁ、そうやけど」  確かに親父は俺を子供だからと甘やかしたりはしない。プロとしてその道に進むならそれ相当に鍛えてやる。クライアントを満足させるモノを作り出してみろという姿勢でいる。一人前の扱いをしてもらえるところはありがたい。  すぐるはそういうところも全部わかってくれている。俺の生涯のパートナーだ。  ニコニコと俺にお茶をそそぐ仕草が可愛くて仕方がない。すぐるは俺の癒しでもあるのだ。 「ニヤニヤしてどうしたの?」 「すぐるが俺について来てくれて良かった」  異国での留学という名前の事業提携。俺の作品の開発に目を付けてきた企業が学校側と裏で手を組んでいることも承知のうえでこちらにやってきた。もちろん、俺もタダでは帰国する気はない。この分野のノウハウや伝手(つて)をたくさん取り込んで自分のものにしていくつもりだ。 「本当に?僕なんにもお手伝いできてないけど」 「そんなことはない。すぐるが側にいてくれると落ち着いて仕事がてきるんや。すぐるは俺の安定剤なんや」 「そう言ってくれると嬉しい」  ああ。すぐるの笑顔は最高や。ちよこんと俺の隣に座る。その肩を抱き寄せようとした時、ピンポンとチャイムが鳴った。 「あ!じゅんが来たのかな?」  朝比奈はすでに戸籍の上では高塚になり、俺もすぐるも「じゅん」と名前で呼ぶようになっていた。 「こんちわ~。すぐるの欲しいもん集めてきたで~」 「来たかお邪魔虫め!」  数日前からじゅんが夏季休暇を取って俺達の元に遊びに来てくれている。友人が訪ねて来てくれるのは嬉しい。嬉しいけどすぐるが懐いているのが妬けてくる。オメガ同士で話したいこともあるだろうし理解はしている。俺はそんなに懐の狭い男やない……はずなんだが。 「ダメだよハジメそんなこと言ったら。せっかく時間を取って遊びに来てくれたのに」 「そうやで。電車や車やなくて飛行機乗ってやってきたんやで」 「はいはい。わかっとります~。それで、何持ってきたんや?」
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