513人が本棚に入れています
本棚に追加
4-1 長谷川の誘惑
小さい頃から内気で人とのコミュニケーションをとるのが下手だった。一人で自分の世界に入るの好きだった。そのほうが誰かに期待したり迷惑をかけることがなかったからだ。
僕はなにをやっているのだろう。誰かに期待するから辛い目にあうんじゃないのか。やっぱり僕は友人などつくらず一人の世界に籠っていた方がいいんじゃないだろうか。誰も僕など相手にしない。僕なんて誰も……。思考がぼんやりとしていく。
どのくらい時間が過ぎたのだろうか。なんだか頭がくらくらする。そういえばさきほどからいい匂いがするのだ。でもハジメの匂いとは違う。なのに身体の芯が反応するのはなぜだ? それにやけに喉が渇く。
「さあ。これをお飲み。気持ちが良くなるよ」
反射的にごくりと飲み干して違和感を感じた。
「ごほっ……なんですか? 水?」
コップには透明の液体が入っていた。だが甘ったるい味だ。ぼんやりとした頭の片隅で警告音が鳴る。ここから早く離れなければと。
「ここは……どこですか?」
気持ちが混乱したまま僕はどこかに連れてこられたようだ。
自分がいま横たわっているのは柔らかい生地の上だ。病院のベット? いや、違う。病院なら消毒液の匂いや看護士さんがいるはず。外はまだ明るいはずなのに薄暗い天井にピンク色の照明が異様に見える。
「ふふふ。いい子だね。僕はねえ。どうせなら互いに気持ちよくなりたいんだ」
(この声! 長谷川教授だ!)
目の前にいる影にしっかりと焦点を合わすと長谷川が薄気味悪くニヤニヤと笑っていた。
首を回して周辺を見るとどうやらホテルの一室らしい。
「驚いたよ。君はオメガだったんだね。くくく。いやあ、今回は当たりだったなあ」
「……何を……言ってるんですか?」
身体が徐々に熱くなる。変なものを飲まされたに違いない。
なんてことだ。あれだけハジメに警戒しろと言われてたのに。
「君が僕にしなだれかかってきたんだよ。アルファの僕のモノがほしかったんじゃないのかい? 甘いにおいがするよ。発情期が近いんだね」
長谷川はアルファだったのか。ではもしかしたらこの匂いは? フェロモンなのか? アルファの強いフェロモンを発して僕を惑わしているのか?
長谷川が首筋やわきの下の匂いを嗅いでくる。気持ち悪いっ。変態じみてる!
「やめて……くださいっ」
身をよじろうとするが身体に力が入らない。それどころか頭は嫌がってるのに身体は触られることを受け入れようとしてくる。
「くく。ああ君って本当に新鮮でいいねえ。ちょっとくらい抵抗してくれたほうが僕も興奮するってもんだ。ようくわかってるじゃないか。何人の男を咥え込んだんだい?」
「なっ? なんて卑猥なことをいうんですか!」
だが、身体はその言葉に更に興奮したように熱をもつ。
【自分の意思に関係なく体が求めてしまうんや】
朝比奈の言葉が頭の中でぐるぐるとまわりはじめる。
まさか、僕は本当にオメガなのか?
最初のコメントを投稿しよう!