ってキミが歌うから

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「あのさ。練習出たら? さとちゃんが気にしてたよ、いない間に決めて申し訳ないって」 「鈴木さんか? 鈴木さんのせいじゃないだろ、気にしなくていいのに」  クラス委員の女子は確かさとみという名前だった。 「さとちゃんは気にしちゃうタイプなんだよ。透真くん練習来ないから、よっぽどイヤなこと押し付けちゃったなって。どうしても嫌じゃなければさ。口パクでいいから、顔だけでも出してたら印象変わるじゃない」 「そうだな。聞いたらなんか悪い気してきたし」 「よかった。さとちゃんには名前教えてもらった恩もあるしね。同じ中学なんだ」  そういうつながりか。 「正直合唱なんて何が楽しいのかと思ってたけど。楽しい気持ちもわかったから」  抵抗感もだいぶ薄れた。 「おかげで」  呼べないので手で示す。彼女はここぞとばかりににやりと目を光らせた。 「花実じゃ呼びにくい? ハナちゃんでも、いいよ」 「呼べるか。ハードル上がってるじゃないか」 「透真くんが練習行くと、ここで会えなくなっちゃうのが寂しいけど」 「軽音部も練習やってるんじゃないのか。いいのか?」 「私もサボり。行きにくくって」 「なんで」  きゅっと顔のパーツを中央に集めてしかめる。彼女が笑み以外を浮かべるのは珍しい。
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