ってキミが歌うから

7/9
前へ
/9ページ
次へ
「先輩たちが卒業しちゃったからさ。バンド組み直したんだけど、それで四月から一緒にやってるギターの三年生に告白されちゃって。しかもその人、一緒に軽音部入ってる私の友達が好きな人なんだよ」  開示された情報量が多くて固まってしまった。 「断ったんだけど。なんでこんな時期にいうかなって。その気ないってはっきり断るのも、ステージ前だから気使うし、ステージ後に返事伸ばそうかと思ったけど、友達のこと考えたらさっさと断らないと、って思い直して。ホントもう、なんで今? って」  まったくだなと肯く一方、理由は一つ思い当たった。 「断られると思わなかったんじゃないか」 「あー、だからかな、諦めてくれないんだよね。文化祭の後また考えて、とか言われてんの。今険悪になったらヤだし、ステージがあるからとかそういうやんわりな理由にしたから、私の断り方も悪かったかもだけど。友達が先輩のこと好きなの、私から言っちゃうわけにもいかないし。告白されたの、友達に言うか言わないかも悩んじゃうし、言わないにしたってなんか罪悪感あるし。最悪だよ」 「本当に。断る気あるのか」 「だって友達の好きな人だよ」 「それは理由にならないだろ。友達のこと抜きでちゃんと考えた方がいい」 「何回考えたって同じだよ。楽しくないもん。先輩はギターも歌も上手いけど。きっと、頭の中に、完璧に仕上がった曲の完成形あって、その通りにしたがるから。毎回その完成形目指して歌うの要求されても。歌なんて。私には生モノだから。毎回同じなんてあるわけなくて、ライブなんだから。だから、文化祭まで、って、文化祭終わったらまたバンド組み直してもらおうって思ってたの。友達とボーカル代わってもらおうって。告白されなきゃそれで済んでたのに。なのに」  あぁもう、と頭を抱え込んだ。 「余計モヤモヤする。モヤモヤ増えたじゃん。透真くんの声聞いてスカッとしたかったのになんでモヤモヤさせるの」 「相談相手間違ってるだろ。その友達も先輩も俺は全然知らないし、どちらかといや人間関係避けまくってるのに、友情に恋愛まで絡んだ複雑な相談されたってアドバイスできるわけないじゃないか」 「声を聞きたかっただけだよ」 「だから。気持ちなんて自分で、そっちが決めることだろ」 「私の気持ちは」  そこで急に言葉が止まった。背を向けてカバンをひっつかんで立ち上がる。 「もういい」  追いかけられない。なんでそんな泣きそうな顔するんだよ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加