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夜にしか鳴かないと言われている鳥、天鈴鳥――。
その鳴き声は、まるで天女の歌声かのようで、一度聞けば誰しも虜になるという……。
そんな鳥がいると聞いたことがあった。でも、まさか、嫁ぎ先にいると誰が思うだろう。
籠の中では、一羽、小さな鳥が飛び跳ねていた。
これが、伝説に等しい鳥と、エイミはいまだ信じることができなかった。
言い伝え通り昼間は一切鳴かず、
エイミは、その鳴き声をまだ聞いたことがない。きっと、喉元の白い産毛を振るわせ、澄んだ音を響かせるのだろう。
とてもきれいな鳥。
でも、とても、邪魔……。
「エイミ様?どうされました?」
侍女の声に、エイミは、粟の入った乳白色の小鉢を置いた。
なぜ、自分が、この鳥に餌をやらなくてはならないのだろう。
ここへ嫁いで半年が来ようとしていた。慣例通り家同士が決めた婚礼だった。
だが、互いに商家ということもあり、エイミの暮らしぶりに変わりはみられなく、夫も、よそよそしさの一つも見せず、その温和な人柄には好感が持てた。
うまく行っているはず、なのだ。
しかし――。
夫は鳥に夢中だった。子供のころから大切に育てているからと、妻よりも、鳥を優先した。
籠の中では、その鳥が首をかしげるような動きを見せ、止まり木へ軽やかに飛び移っていた。
「こんな鳥、いなければいいのに」
「エイミ様!旦那様に知れたら!」
侍女がエイミを叱咤する。
誰に、この気持ちがわかるだろう。
毎夜、夫は私室にこもり、この鳥の鳴き声に聞きほれている。
そして、エイミが寝ついた頃、床に就く。
朝を迎えてはじめて隣りに、夫がいたのかと驚く日々。
よその女に入れ込んでいるわけでもなく、たかが鳥の一羽に目くじらを立てることもなかろう。それも、珍鳥と尊ばれている天鈴鳥なら、熱中してしまうのも無理はない。
と、お付きの侍女は、言ってくれるが、その、たかが鳥の為に、独り寝を強いられるのが、むなしくもあり、くやしくもある。
さて、夫は、関所三つ先の街へ商いに出かけ、暫く屋敷に戻って来ない。
そして、留守の間の鳥の世話を、エイミに託したのだった。
「さあ、小鳥さん。お前のご主人様は、暫くいない。そうよ、今日から私がお前のご主人様。しっかり、私にお仕えなさい。そして、その美しい鳴き声とやらを、存分に聞かせてもらうわね」
エイミは、ほくそ笑む。
そう、今日からは私が……。この鳥を自由にできる。
夫の目を気にして、かしずくような真似をしなくても良いのだ。
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