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「に、ニーナ……何しに来たんだ?」
バンディ様がおそるおそる彼女に聞いた。ニーナはにっこりと笑って手紙をバンディ様に手渡す。白い無地の封筒に円状の赤い封がなされてある。
「これは……?」
「今度うちの屋敷で行うパーティーの招待状でございますわ。そちらのお2人にもぜひご参列願いたいのですけれどよろしくて?」
(どういう意図で……?)
だがここで受け取らないと固辞すればそれはそれで怪しまれるかもしれない。行かない方がよさそうなら当日仮病でも使って休めばいいだけの事だ。
「よろしいんですか?」
「ええ、よろしくてよ。それにあなた方はここに来たばかりでしょう? おもてなしさせて頂きますわ」
「ありがとうございます。ニーナ様。良かったわねマルガリータ」
「ええ。ルネ。ニーナ様こちらこそよろしくお願いします」
「あら、丁寧ですわね」
一瞬だけニーナが私達を不思議そうに見つめたがすぐに威圧感のある笑みに戻る。
「承知しましたわ。バンディ様、王太子殿下にもご参列の程よろしくお願い申し上げますわ」
「ああ、兄さんに伝えておくよ」
「ありがとうございます。それでは」
ニーナがゆっくりと静かに部屋から出ていった。彼女の靴音が小さくなり聞こえなくなったタイミングでバンディ様が眉をひそめながら口を開く。
「あれ絶対怪しいって。何か企んでるよ」
(確かにバンディ様の言うとおりだ。怪しい。何か裏がありそうだ)
「私もそう思いました。マルガリータはどう思う?」
「エドワード様にお近づきにならないよう言われてからのこれだし、パーティーにはエドワード様も来てほしいんでしょう? 何かあるのかしら……?」
(自分の方がエドワード様にふさわしいというアピール? もしかして……婚約?)
さまざまな可能性が胸や頭の中に去来しては白いテーブルクロスに付いた黒いシミのように消えない。その後の研究と座学でも中々集中して取り組む事は出来なかった。それはバンディ様とルネも同じだった。
15時過ぎ。バンディは私とルネにここで待っているように。と告げる。
「わかりました……」
「マルガリータ。今から兄さんを呼んでここに来てもらうよ。それで今日の事も話したらいいさ」
「迎えに来ていただくって事ですか?」
「そうだ。兄さんがいればニーナも迂闊には手を出せないはずだ」
「わかりました。確かにその方がよろしいとは思いますが、エドワード様には申し訳ないと言うか……」
「気にするなって。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
バンディ様はそう言い残して早歩きで部屋から出ていった。その様子はまるで強風が湧きたつようにも見えた。
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