第8章 新たな生活と火種※

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 その後。私達はバンディ様が呼んできたエドワード様と合流し4人で王宮に帰還したのだった。幸いにもニーナらとは顔を合わさずに済んだがそれでも近くにいた令嬢や令息達からは怪しい目線を向けられたのは忘れてはいない。 「バンディ、招待状の封を開けてみてほしい」 「ああ、分かった」  王宮内のエドワード様の部屋に集まり、改めてニーナが渡した招待状の封を開けてみる事になる。封筒の中には封筒と同じ白い無地の便箋が1枚入っていた。文面をバンディ様が読み上げる。 「明日の夜17時より、バルガス家の屋敷にて夜会を開催する。王太子殿下は必ずご出席を願う……だって」 「本当にそれだけか? バンディ」 「ああ、それだけだよ兄さん。読んでみる?」 「ああ。……本当だな。ちょっと炙ってみるか」  エドワード様がクローゼットから木製の小さな杖を取り出した。そこに何やら呪文を詠唱すると杖の先端付近から灯りの如く火が燃え上がる。その火で手紙を炙ったものの、何も文字は浮かんでは来なかった。 「細工も無しか。俺は必ず出てほしいって一体何を考えているのやら」 「エドワード様。少し心当たりがあります」 「マルガリータ……心当たりとは?」 「私達はエドワード様には近づき過ぎないようにとニーナ様から警告を受けた次第です。ねえ、ルネ?」 「はい、そうです。なので何かけん制したいのかなって……」 「けん制か……例えば?」 (近づくな。と言ってるのとバンディ様のあの言葉……となると) 「ニーナ様はエドワード様と婚約するつもり、とか?」  私のその発言の直後、一瞬ぴたりと空気すべてが止まった感じの感覚を覚えた。時間も止まっているのだろうかと錯覚してしまうほどだ。そして最初に口を開いたのはエドワード様だった。 「……ありうるな。あの女は……これまで何度も俺に求婚を申し出てきた。その度に却下していたが」 「え、そうだったんですか?」 「ああ、マルガリータにはいずれ言うべきかと思っていたがすまない」 「ああ、いえ気にしないでください。王太子なら求婚したい令嬢も山ほどいるでしょう。自然な話です」 (実際レゼッタがあのような感じだったし、令嬢なら王族と結婚したいと思うのは至極当然な話だ) 「確かにマルガリータの言う通りかもしれない。あのパーティーにエドワード様を呼んで求婚か婚約したという話に持っていく、とか……?」 「なあ、兄さん。これ行かない方がいいんじゃないか?」  バンディ様が眉をひそめながらエドワード様にそう告げる。 「あのニーナの事だよ。兄さんを魔術なりお酒なりで騙してさ、婚約用の書類にサインさせるとかあってもおかしくないと思うよ」 「バンディ……」 「とりあえず兄さんは行かない方が良い。マルガリータと僕とルネの3人で行こう。兄さんはここで待機しておくべきだ」 「私もそのように思います」  バンディ様の意見にルネもまた賛成の意志を示した。エドワード様はバンディ様の意見には反対していないようで何度も首を縦に振りながら腕組みをして考え込んでいる様子を見せる。 「マルガリータの意見も聞きたい」 「あ、私は……そうですね。バンディ様とルネの意見に賛成です。エドワード様の身に何かあってもいけませんしかといって私達も来ないとなると報復が怖いです。なので私とルネとバンディ様の3人で夜会に出席するのがよろしかいかとは思います」  そうだ。彼は行かない方が良い。迂闊に行けばあちらの思うつぼかもしれない。 「……分かった。ではそのようにしよう。理由はどうする?」 「体調不良でよろしいかと。それか公務のご予定があるならそれで」 「了解した。マルガリータの言う通り公務で行こうと思う。皆。この事は内密にお願いしたい。いいな?」 「はい!」  次の日の夜。エドワード様はこの日の朝から部屋に引きこもり公務……書類に目を通しサインをしていったりハンコを押したり側近に指示をしたり裁判の結果を聞いたりと言う仕事を続けている。勿論夜会には来ていない。私達はエドワード様から頂いたドレスを着用し、馬車に乗ってニーナのいるバルガス侯爵家の屋敷に到着した。 「ここがバルガス侯爵家ね……」  白亜の屋敷は真新しいもののように見える。バンディ様曰くかなり年代が経っていたので去年大改築が行われたばかりなのだとか。 「2人とも僕から離れないようにね」 「ええ、はい」 「マルガリータ、離れてはだめよ?」 「大丈夫よルネ。あなたこそ迷っちゃだめよ?」  屋敷の外装と同じく白亜の内装を誇るエントランスホールには既に10数人程の令嬢や令息方が集まっていた。ワインを片手に談笑したり扇子で顔を覆いながらにこやかに周囲を眺めたりしている。 「こんばんは。来ていただき光栄にございますわ」  目の前に黄色いドレスを着用したニーナが颯爽と現れた。髪は1つに束ね化粧も昨日以上に濃い。アクセサリーも真珠や宝石がこれでもかと言うくらいにあしらわれている。 (まるで、花嫁のようだ。ドレスの形もアクセサリーも) 「エドワード王太子殿下は今日はお忙しくて来れないとお聞きしましたわ」 「ああ、そうなんだよニーナ。公務で忙しくてね」 「バンディ様。お気遣いありがとうございますわ。でも殿下がいなくても大丈夫。気に病む必要はありません。王太子殿下の分も楽しんでいかれてくださいませ」 「ははっありがとう」  その後、オーケストラの演奏が始まった。ゆったりとしたテンポのワルツが流れている。曲に合わせて令嬢や令息達のよる優雅なダンスが始まった。 「ルネ、僕と踊らない?」 「えっいいのですか?」  ルネが急にバンディからダンスの誘いを受けた。ルネはどう踊ったらいいのか……。と小声で戸惑いを見せる。 「大丈夫だよ。僕がエスコートする。君は僕の導くままに踊れば良いのさ」 「ルネ、いってきたら?」 「マルガリータ……は、はい。やってみます」 「ははっその意気や良し、だね」 「皆様! お話がございます!」  ここでニーナが両親らしき男女を連れ、演奏とダンスを止めるように指示をする。ニーナの後ろにいる両親はじろりと私達夜会の出席者を見回す。父親らしき人物の右手には何やら書類が丸めて握られている。 (話……?) 「お父様、あれを出して頂ける?」 「ああ、ニーナ」  父親が丸めていた書類をばっと広げ、私達の目の前に突き出した。そこには婚約を認めるという文にニーナの名前とエドワード様の名前が記されていた。 「わたくし、ニーナ・バルガスはエドワード王太子殿下と婚約する事になりました!」  
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