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「……タ、マルガリータ!」
「……! あ、ここは……?」
目を覚ますと目の前には絵画で覆われた美しい天井が目に飛び込んできた。ここは……エドワード様の部屋か。となるとこの感触……私は今、ベッドの上で寝ているのか。
「マルガリータ! 気が付いたか?!」
「マルガリータ! 私よ、ルネよ!」
左右からエドワード様とルネの声が相次いで響き渡る。私は起き上がろうとしたものの全身の関節に鈍い痛みが生じる。
「っ!!」
「マルガリータ、ゆっくり起きて。魔法薬何個か持ってって良かった……」
「魔法薬?」
そうだ。私は炎に飲み込まれようとするバンディ様を助けるべく飛び出したんだっけか。その後ルネが私の名前を呼ぶとこは覚えているけどそれだけだ。
「ルネ、あれから私はどうなったの?」
「あれからあなたは炎に全身焼かれたの。それで魔法薬がたまたまあったからそれで治療したの」
「全身やけどしてたって訳?」
「ああ、そうなるな。あとあちこち打撲もしていた。さっき起き上がろうとして痛みを感じたと思うが多分その打撲がまだ治りきってないからだと思われる」
「そうだったんですね……バンディ様は?」
「やけどは軽いもので済んだがまだ昏倒状態にある。おそらく術をピンポイントでかけられたのだろう」
「……私が、治しに行きます……」
私ならエドワード様のようにバンディ様も治せるはずだ。私がそう言ってゆっくり立ち上がるのをエドワード様とルネが制する。
「待て、マルガリータ。気持ちは分かるが今は傷を癒せ」
「で、でも……バンディ様が」
「あなたまで調子崩したら元も子もないわよ?」
「た、確かに……そうね。ルネは何も無かったのよね?」
「あなたとバンディ様が術による攻撃を受けた後、私も術で眠っていたみたいで……目を覚ましたらあなたとバンディ様と一緒になんか地下牢みたいなとこに入れられていた。そこに王宮直属の兵士が来て助け出されて……」
「そうだったのね……けがはない?」
「ちょっとやけどはしたけど大丈夫よ。軽いものだったからすぐ治癒魔法で治療したわ」
「そっか。良かった……ありがとう、ルネ」
「いいえ、これくらい礼はいらないわ」
バルガス侯爵に関しては王宮の兵士が彼の身柄を捉え、今は尋問中だと言う。一方ニーナは母親と共に屋敷でいるのだとか。
「なんでニーナ様はお屋敷に? あの炎の魔術はニーナ様よね?」
「それがね、すべてはバルガス侯爵がやったってしか言わないみたいで……バルガス侯爵も全部自分が悪いって言ってるみたいで……」
「ルネの言う通りバルガス侯爵が全ての罪は自分の責任だと言って聞かなくてな。それにニーナの罪の証拠も無いから今は何にもできない。とても歯がゆいが……」
「いえ、お気になさらないでください。エドワード様」
結局ニーナは罪には問われず屋敷で悠々と過ごしているという訳か。あの炎の魔術は間違いなくニーナが繰り出したもののはずだが……彼女が持っていた扇子は父親が細工をしていたとか、そういう風に言い訳しているのだろうと思えば埒が明かないなと感じる。
「ゆっくり、起き上がるのよね……」
「もう痛みは大丈夫なのか? 無理は良くないぞ」
エドワード様とルネが心配そうに私を見つめる。私は両手を組み、自身へ治癒魔法をかけた。痛みもきれいさっぱり無くなった所でベッドからゆっくりと起き上がる。
「もう大丈夫なの?」
「ええ、治癒魔法かけたから大丈夫よ。早くバンディ様の元へ向かわないと」
「……わかった。マルガリータ、俺が案内しよう。だが、無理はするなよ?」
「お気遣い感謝します」
今気が付いたが私は今白い寝間着を着ている。ちょっとサイズがぶかぶかなので私の物ではないだろう。もしかしたらルネか誰かが着せてくれたのだろうか。
ひんやりとした空気の漂う廊下をエドワード様が先導する形で歩く。そしてバンディ様のいる部屋に到着すると白い天蓋付きのベッドの上でバンディ様が寝間着姿で横たわっていた。右頬には打撲の跡が残っているがやけどの痕は無い。
「バンディ様……」
(呼びかけにも応じず、か……)
「今から治癒魔法をかけます」
術をかけるなら早めにしておく方が良い。私は早速さっきのように両手を組み、祈る体勢でバンディ様へ治癒魔法をかけると私とバンディ様の周囲が青白くまるで蛍の光のように灯りだした。詠唱を途切れる事無く続けるとバンディ様の瞳がゆっくりと開かれた。
「あ……」
「バンディ……! 気が付いたか!」
「……兄さん? それにマルガリータとルネ……ここは、僕の部屋か……」
「お気づきになりましたか?」
「ああ、ルネ……僕は、どうやってここに」
「あれからマルガリータと一緒にニーナ様からの攻撃を受けたんです」
エドワード様とルネが私にしたようにバンディ様にも経緯を詳しく説明する。最初は焦点があまり定まっていないような視線を送っていたバンディ様だったが、やがてその目には怒りの感情があふれ出してきたように見える。そしてがばっとベッドから起き上がると部屋から出ようとするのでエドワード様が慌てて引き留めた。
「おい待て! どこへ行こうとするつもりだ!」
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