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結局ベルの消息は未だに掴めていない。近くの平民達にもメイドが聞いたりしたが確固たる手がかりは得られなかったようだ。
「若い女性が深夜に道端を走っていた。という情報はあるみたいですが……」
そう執事が教えてくれた。若い女性だけではベルとは分からない。彼女がどこに走ったかも分からないので判断がつかない。
(早く見つけてたら棒で叩いてやるんだから)
ベルは没落した元男爵令嬢だと聞いている。実家に帰っているとも考えづらい。
となるとやはり隣国か別の貴族へ向かったのだろうか。それはまずい。工場の事が知られてしまえば……。
この日は朝から多くの民が雨に打たれながら屋敷の前で列をなして待っていた。
「聖女様! お待ちしておりました!」
「ありがとう。症状は?」
「早く済ませたい……」
「右足をくじいてしまいまして……」
「分かったわ。お金は?」
「あります。どうぞ受け取ってください」
執事が商人風の出で立ちをした若い男性からお金を受けとる間に、私はテーブルの上に置かれた魔法薬の入った瓶を取る。
「じゃあ、かけるわよ」
赤く腫れ上がっている右足首に魔法薬を掛ける。しかし相手の痛そうな顔は変わらない。よく見ると患部はまだ腫れ上がっているままだ。
(まさか、効いていない?)
「あの……聖女様……」
「何かしら?」
「痛みが引かなくて……腫れも……」
またか。ベルがいなくなる前から魔法薬を掛けても効かない現象がたまに置き始めている。お姉様がいた時はこんな事無かったのに。
だが足首をくじいただけで魔法薬が全く効かないのは初めてだ。なぜだ。足首をくじいた如きで。
「う、嘘よ。ちょっと待ってて。薬を持って来るから」
「……いえ、いいです」
「なんですって?」
より効果の高い魔法薬を取りに地下の工場へ向かおうとしていた私を彼は引き留めた。
「やはり本当だったんですね。聖女様のお力が衰えているという噂」
「は?」
私の力が衰えている? 何を言っているんだ?
「無理はしないでください。では私はこれで……お金は返さなくても良いですから」
男はそう言い捨て去っていった。その後も魔法薬の効き目が薄かったり全く効かなかったりという事が相次ぐ。
何よこれ。ちゃんと魔法薬作ってるの?! 私は昼食を食べ終えた後工場に赴いた。
「ちょっと! ちゃんと薬作ってるんでしょうね?」
メイド達はぽかんと口を開けたままだ。その反応を見ていると更に腹の底から怒りがこみ上げてくる。
「あなた達ちゃんとマニュアル通りに作ってんのかって聞いてるの! 魔法薬が効かないって人が出てきてるのよ?!」
「マニュアル通りに作っています……」
「間違えてないでしょうね?! ああ、もういいわ! 失敗したら許さないから!」
これ以上は埒があかなさそうなので工場を後にして大広間に戻ったのだった。ああ、そうだ。今日は国王陛下にお会い出来るんだった。楽しみだわ!
という訳で今日のお努めはここまでにしよう。昼過ぎだからいつもより大分早いけど大丈夫だろう。私はその事を執事に伝え自室に戻って新品の水色のドレスに着替えてアクセサリーを身に着ける。そして用意された馬車に乗り込み王宮に向かった。
王宮の大広間に通されると早速国王陛下にお会いした。にこやかに笑う国王陛下は素敵な存在だ。
「国王陛下、お会い出来て光栄でございます」
「ああ、聖女レゼッタ。今日も美しいな」
「そんな……滅相もありません」
「夕食を用意した。好きなだけ食べると良い。今日はここに泊まっていきなさい」
「まあ……! ありがとうございます。所で王妃様は?」
「数日前から体調を崩していてな。今は自室にいる」
当たり前だ。執事に命じて王妃様に毒を盛った。やり方は彼女への贈り物であるお菓子に盛っただけ。王妃様はお菓子が好きでよく貴族の令嬢からお菓子の贈り物を頂いているのだとか。
本当はここまでしたくはなかったけど、あまりにも私に対して敵意を剥き出しにするからそうした。面倒な相手はやはりこうした方が良いのかもしれない。現に私はこうして王妃様の妨害もなく王宮で国王陛下にお会い出来ているからだ。
夕食後は赤い薔薇の花びらで彩られた浴槽で入浴し身を清めた後は国王陛下の夜伽を務める。閨に入りベッドの上で座って待っていると寝間着姿の国王陛下が1人で現れた。どうやら家臣は引き連れていないのだと言う。
国王陛下に私はすぐに抱き着いた。こう言う時は国王陛下をその気にさせるべく、積極的に快楽を与えなければならない。遠い異国ではこれを房中術と言うのだとか。これは私がお姉様に勝てるジャンルだ。
「陛下、ベッドの上で仰向けになってください」
「ああ……」
陛下が仰向けになったのを見てから私は彼の寝間着を解いて、すでに硬くなりつつあるそこの上に跨り前後に腰を揺らす。素股とか言う構図だ。
すると陛下はため息交じりに口を開く。
「最近、レゼッタの聖女の力が落ちていると聞いたが、まことか?」
「え……?」
腰の動きが止まってしまう。まさかそのような事を陛下から言われるとは思わなかったからだ。
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