第13章 再託宣※

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第13章 再託宣※

 あの国の国王陛下と領地をあちこち視察する公務があり、そこに私とルネとバンディ様も同行して欲しいという事だった。 「それと密偵からの報告も来ている。やはりレゼッタ嬢は地下で魔法薬を作らせているらしい。だが……」 「何か?」 「巷では聖女の力が落ちてきているという噂が流れ始めている。それは国王の耳にも届いているようでな」 「聖女の力が落ちてきている?」  そもそもレゼッタには魔力がほとんどない。それに彼女が魔法薬をせっせと作るような人柄にも思えない。となると……。 「私の考えなんですが」 「マルガリータ。言ってみてくれ」 「私やルネ達がいなくなった事で、魔法薬の質が下がっている……という事でしょうか?」  私は聖女だし、ルネも上位の魔力量を持つ。トップクラスの者がごっそり減り、新たに加わったメイドの魔力量の平均値が以前よりも下がっていたとすれば起きうる事態だ。それに魔法薬の質が低下した事でレゼッタの力が落ちたという噂が起きていると仮定した場合、新たに加わったメイド達の中に聖女級の者はまずいないだろう。いるならこのような噂は起こらないはずだ。などと考えてみる。 「実は密偵から魔法薬を数個入手していてな。これから検査にかけてみるんだが、マルガリータとルネも立ち会うか?」 「ぜひお願いします」  これは自分の目で見て確かめなければ判断はつかない。私とルネ、バンディ様はまずカルナータカ侯爵家の地下の工場で作られている魔法薬の検査をする事に決めた。ちなみにあの国へ行くのは3日後という事で少し時間があるのも検査が決まった決め手だった。   「では専用の部屋がありますのでそちらで行いましょう」  フレッグ教授が専用の部屋を案内してくれた。彼もまた研究の為という事で同席を願い出てエドワード様から許可を頂いたのだった。  古めかしい茶色の重厚感のある扉を開くと薄暗い部屋が現れた。床は灰色。石造りの粗末な床にはあちこちひびが入っている。部屋の真ん中には茶色い台があり、エドワード様はそこに持っていた魔法薬を全て置いた。数は5つ。これくらい数があればたとえ失敗があっても大丈夫だろうか。 「では、やってみよう……フレッグ教授、説明をお願いしたい」 「はい。まずは申し訳ありませんがどなたか傷を負ってもらいたい。そこに魔法薬をかけて効能を確かめたいと予定しておりますので」 「私がやります」  私なら治癒魔法ですぐに治せる。私が適役だろう。だが私と同時にエドワード様とルネ、バンディ様も手を挙げていた。 「俺がやる。マルガリータを怪我させるわけにはいかん」 「マルガリータ。ここは私がやる。エドワード様とバンディ様にお願いする訳にもいかないし」 「兄さんならそういうと思ったよ。ルネが怪我するとこも見たくは無いし」 (これは……収集がつかないんでは?!)  結果。話し合いの末ルネに怪我をしてもらう事になった。手順はまず短剣で彼女の指の腹を切る。次にそこへ魔法薬をかけ、治り具合を見るというものだ。 「これ、使う?」  バンディ様が持っていた短剣をルネに渡した。金色のさやに細やかなルビーなどの宝石がちりばめられた持ち手にと、とても派手な短剣だ。ルネはその短剣を受け取り息を大きく吸い込むと左手の親指の腹をぴっと切った。血が出て来るのを確認すると傷口に向けて私が魔法薬をどばっとかける。 「どう?」 「痛みはまだあるかも……」  魔法薬をかけた場所を布で拭く。しかし傷口は綺麗にはなっておらず血は止まっていない。 「やっぱり……魔法薬の質が落ちてるって事ね」 「マルガリータ……」 「だからレゼッタお嬢様の聖女としての力が落ちたって噂が流れたんでしょう。魔法薬の質が落ちてるから」  私は治癒魔法をルネの傷口に向けてかけた。するとみるみると傷口と血がふさがり元通りになる。ルネは何度も頷くような仕草を見せた。エドワード様とバンディ様、フレッグ教授も興味深そうにその過程を見ていた。 「これがレゼッタお嬢様の力が落ちてきていると言う噂の証明になったわね」 「そうね、ルネ……」 「工場での様子がどうなのかは知らないけど……レゼッタお嬢様が苦境に立たされているのは良い事だわ」  ルネはふふっと安堵したかのような笑みを見せたのだった。  そして3日後。あの国へと向かう日が訪れた。私とルネは王族専用の馬車にエドワード様とバンディ様と共に乗り込む。この馬車は新品で広々としていて座り心地もとても良い。 「では出発します」  御者の声が高らかに響くのと同時に2頭の黒い馬体をした馬が颯爽と走り出した。車窓からは爽やかな風が吹きつけて来る。その風が心地よくてずっと車窓から顔を出していた。 「マルガリータ、風邪ひくわよ」 「やっぱり? 風が心地よくて」 「レゼッタお嬢様と合わなきゃいけないのかしら」  ルネがそうため息交じりに呟く。 「大丈夫だよ。カルナータカ侯爵家には立ち寄らない予定だから」 「バンディ様、本当ですか?」 「だが、バンディ。王宮にいるとも限らないぞ」 「そ、そうだよね……」  嫌な予感がピリピリと背中から伝わって来た気がした。
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