ジャクリーヌ・デュ・プレ

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ジャクリーヌ・デュ・プレ

 なにげなく借りてきたビデオだった。実在したイギリスの女性チェリストの映画。悲劇の天才。天才の悲劇……  ジャクリーヌ・デュプレが弾いたエルガーのチェロ協奏曲は私の中では上位になった。この映画を観なければ知らずにいただろうか? 知ったから余計に切ない。最期のときには第1楽章を掛けてほしいと思う。 *  ヒラリーとジャクリーヌの姉妹は幼少の頃から音楽好きの母によって育てられた。ふたりは揃って音楽コンクールに出場するが、そこで絶賛されたことを機にジャクリーヌはチェリストとしての才能を開花させていく。ヒラリーは自分の才能に見切りをつけ、大学の同級生キーファと結婚し、平凡な家庭夫人となる道を選ぶ。  22歳で天才ピアニストのダニエル・バレンボイムと結婚して、さらに名声を高めたジャクリーヌだが、心身ともに疲れ、平凡な生活を選んだ姉に羨望と嫉妬を抱いた。姉の人生をうらやみ、ついには……  心身の異常は続き、医者から多発性硬化症と診断される。  そんななか、夫ダニエルはパリで別の家庭を持つようになり、ジャクリーヌはひとり自分の世界に閉じこもるように。彼女は闘病生活を続けたが、1987年10月19日に42歳の若さで世を去った。 *  20世紀最高のチェリストと謳われた、ジャクリーヌ・デュ・プレの生涯の映画化。28歳の頂点の時に不治の病に倒れた伝説のチェリスト、ジャクリーヌ。ステージでは決して見せなかった彼女の苦悩や葛藤を、姉妹の確執を軸に、実姉の視点から描いてゆく……  なんて、妹の死後、姉のヒラリーが出した暴露本をもとに作られた作品。姉の嫉妬で書かれていて事実無根、ジャクリーヌ・デュ・プレの名誉を汚したと、クラシック界隈に大バッシングされた。   *  実姉ヒラリーと実弟ピアスの共著「風のジャクリーヌ」が原作だ。映画が公開されたときの反発は大きかった。あまりに内容がスキャンダラスで、ジャクリーヌ・デュ・プレを誹謗中傷していると、著名な音楽家たちが抗議を表明した。映画で描かれたジャクリーヌは姉ヒラリーの嫉妬によって歪曲された像だというのだ。  本作の制作費700万ドルに対し興行収入が491万ドルとズタズタの成績だったのは、ジャクリーヌの元夫ダニエル・バレンボイムからの訴訟を恐れフランスで公開されなかったことにもよる。  スキャンダラスな内容とは、ヒラリーと夫キーファが家庭を営む田園生活にジャクリーヌが闖入、神経が参ってウツ状態だったジャクリーヌが姉に「キーファと寝たい」といい、ヒラリーは仰天するものの結局夫を説得した。  ヒラリーの娘によれば父親とジャクリーヌの関係は1度きりではなく、継続的な関係だったとしている。当事者が黙っていれば絶対おもてに出なかったことだけに、不世出の天才チェリストの恥部を暴いたとして、ヒラリーへの弾劾は強かった。  ジャクリーヌは28歳のころ指先の感覚が薄くなっていることに気づく。多発性硬化症(MS)の発症だった。予想外の速さで症状は悪化し、演奏中チェロの弓を落とすようになり聴覚まで消えていき事実上引退する。  体中に震えがきて食事も喉を通らない。誰も手をつけられない。病気の進行はジャクリーヌの脳幹を侵し人格を破壊し言語能力を奪っていく。字を書くことは困難になり、記憶力が衰え、家族が訪問したことを忘れ、誰も会いに来てくれないと狂気のように怒り狂った。彼女の感情の暴力はいちばん身近にいる家族に向けられた。特に母親に凶器のような残忍な怒りが浴びせられた。MSは筋肉のコントロールに影響し、自分で頭を支えることも言葉を発することもできなくなる。  ヒラリーはそんな妹が不憫でたまらなかった。妹が夫と寝ようとなにをしようと、自然児のようなジャッキーが憎めなかった……  (Web版Womanlifeより抜粋) エルガーのチェロ協奏曲第一楽章 https://youtu.be/UUgdbqt2ON0
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