3:バグを発見しました

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3:バグを発見しました

 西洋甲冑がビーム銃を向けてくる。 「荷物を出セ、逃がスことはなイ」  僕は緊張感を感じながら動くのをやめる。  西洋甲冑はゆっくりと歩きだして、鞄を開けた。  そして。 「怪しイゾ、詳しく話セ」  そのとき、西洋甲冑が集まっているのが見えた。 「くそ」  ビームが足元を撃つ。 「もういイ、力尽くダ」  西洋甲冑が銃を僕の顔に向ける。  一閃、目の前に迫って目を閉じた。  何も起こらない。 「大丈夫? 私が守るから。ね?」  彼女が現れた。  西洋甲冑は彼女にビームを放つ。  彼女は翼で風を起こすと、ビームを弾いた。 「帰ろう、一緒に」  彼女は優しく手を握ってくれた。  そして空を飛ぶ。 「お菓子持ってきた」 「楽しみ」 「だね」  おやつとしてドーナツを食べたのに、夕食がお菓子とは。  でも彼女が嬉しそうならいいのだろう。  それとやっぱり。 「君は特別だね」 「なにそれ、プロポーズ?」  話が微妙に合わない気がするが。  異形なのは彼女だけだった。  ボロボロの家に着く。  水道はまだ使えそうだった。  ガスと電気は止まっている。  不法侵入だが、あと四日で世界が終わるならいいだろう。  神様はいる、そしてこの世界が終わって新しい世界が始まる。  特別な彼女を守れれば、どんな手でも使うのだ。 「ポテトチップスとチョコレートだ。私、どっちにしよう」 「分け合えばいいだろ?」 「うん。シャワーどうする?」 「僕の家に夜中忍び込めばいけるかも。あ、他の時間でもいいけど、家族は神様を信じずにいつも通りの生活をしようとするかな? 甲冑のやつがビーム撃ってきて、なかなかすごいことになってたし。スマホもテレビも使えなくなってたし」 「そうだね。ねえ、明日さ。お母さんに会えないかな?」  僕は一瞬迷った。 「駄目かな?」 「分かった。僕も行く」 「もちろん!」  僕らは眠ることにした。  朝、目を覚めると彼女の翼が二つになっていた。  椅子に座っていて、僕が起きたことに気づくとお菓子を用意してくれた。 「あまり眠れなくて」 「そっか」  気づかなかった。  僕より長い夜を過ごしたようで、胸がぎゅっと苦しくなる。 「もう行きたい、心配で。でも君の親も」 「うん。だから先に寄っていい?」  お菓子を一袋食べて。  僕らは飛んで僕の家へ。 「玄関に鍵が掛かってる」  中に入ると手紙が置いてあった。  残り三日間は好きなことを夫婦でするそう。  タフだなって思ったし、だからこそ僕の両親だって思った。 「シャワー浴びていこう」 「一緒に入る?」 「えっち。でも翼生えちゃってるから、いつも以上に恥ずかしい」 「洗いにくいんじゃない?」 「それでもだよ!」  シャワーを終えて。 「着替えと鋏!」 「鋏?」  更衣所で言われる。  僕は母親の服と鋏を渡した。  彼女が出てくると、ようやく意味が分かった。  翼を通すための穴が必要だったらしい。 「急いでいくね」  彼女に抱えられて飛ぶ。  安定感が増していた。力も強くなっているらしい。 「駅、見て」  空から見下ろす。 電車が動かなくなっているそうで、人だかりができていた。  駅員もいない。  車も渋滞していた。   「バグ探ス、バグ探ス!」  西洋甲冑の集団が走り回っていて、時々ビームを撃っている。 悲鳴が上がっていた。  僕らは彼女の家に来る。 「あれ、開いてる」  リビングに行くと、彼女の母と父がビール缶片手に談笑していた。  僕と彼女を見る。  彼女の父は何かを察したからか黙って、母はただ一言だけ。 「化け物ッ!」  そう叫んで、父親は怖がる母の背中をさすって、僕らを見て頭を下げる。  僕は彼女の表情を見ることができなかった。 「元気でな、父さんはこっちの味方をするつもりだ。でも、娘のことも愛している。優先順位が一位と二位だったということだ。すまん」  彼女は泣いていたのか?  分からない。  でも、今すぐ抱きしめるのは怖かった。 「行くよ、家に」  声が震えていた。  外に出る。  彼女は撃たれた。  翼を貫通してしまった。血が流れた、それは青だ。  ちょうどそのとき脳裏に声が聞こえた。 「新しい世界、β世界まで残り三日です! バグをそれまでに排除するので楽しみにしててくださいね!」  陽気な声。  僕は苛立った。  今は彼女を守るのが先だ。 「ねえ、痛くない。怪我してるよね、なんでだろ」  弱々しい声。  僕は腕を掴んで走り出す。  僕の足が撃たれた。  けど止まるわけにはいかない。 「一緒に逃げよう」 「うん」  しかし。 「バグを発見しましタ」「バグを発見しましタ」「バグを発見しましタ」  無数の西洋甲冑に囲まれた。  彼女は僕の手を振り払った。 「もういいよッ! 私化け物なんだよ、バグなの、排除されなきゃなの。これ以上、傷つかないで。私は好きな人を守りたい」  その思いに、僕の心が震えた。  僕は彼女の前に出る。 「君とのデートは最近飽きてた。だから、僕を守らなくてもいいよ」 「え?」 「こんなクズを守らなくていい」  僕は堂々と西洋甲冑に近づく。  再び撃たれた。  次は太もも、僕は倒れた。 「バグを発見しましタ」  そのとき、僕はたった一つの真実に気づいてしまって。  口角が上がってしまった。 「バグを発見しましタ」  銃が僕の頭に向けられる。  彼女の変異はバグではないらしい。  バグと呼ばれているのは。 「私の、はじめ君に手を出さないで!」  庇ったのか?  倒れた僕は視線を動かせない。  青い液体が散ったのが見えた。 「バグを発見しましタ」  西洋甲冑が言う。  僕はそっと口を開いた。
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